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米国の松王劇
べいこくのまつおうげき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「岡本綺堂随筆集」 岩波文庫、岩波書店
2007(平成19)年10月16日
入力者川山隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2008-12-26 / 2014-09-21
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 白人劇の忠臣蔵や菅原はかねて噂には聞いていましたが、今度米国へ渡って来て、あたかもそれを見物する機会を得ました。わたしがサンフランシスコを夜汽車で出発して、ロスアンゼルスの町に着いたのは三月の十九日で、ホテルに入って新聞を見ると、ハリーウードのコンムニチー・シェーターで松王劇を演じているが、それが非常の好評で一週間の日のべをされるという記事が眼に注きました。あたかもたずねて来てくれたホーム貯蓄銀行の清原君にその案内をたのむと、清原君はまだ一度も行って見たことはないが、ともかくも案内しようということで別れたのが午後二時頃でした。それからだんだん訊いてみると、コンムニチー・シェーターというのは一種の会員組織のようなもので、突然に押蒐けて行っても入場が出来るかどうだか判らないとのことでした。そうなるとなおなお見たいような気がするので、早々に夕飯を済ませて清原君の来るのを待っていると、清原君は八時頃に誘いに来て、生憎に降って来ましたという。降っても構わないからともかくも連れて行ってくださいと強請んで、伊坂君と一所に宿を出ると、冷たい雨がびしょびしょ降っていました。ハリーウードというのは近頃ロスアンゼルスの市に編入された所で、市の中央からはかなりに距れています。電車で約三十分を費した後に、その劇場の前にゆき着くと、雨に濡れた自動車が路の両側に長い列を作っています。これではいよいよ入場がむずかしいかも知れないと危みながら、入口の窓口へ行って訊いてみると、若い女が窓から首を出して、会員以外でも入場させないことはない、しかし今度の劇は十八日から二十四日まで一週間の予定であったのを、切符売切れのために更に三十一日まで一週間の日のべをした位であるから、二十五日以後でなければ入場券を差上げるわけには行かないと、気の毒そうに断るのです。実際我々ばかりでなく、おなじように断られて雨のなかをすごすご帰ってゆく婦人などが沢山あります。もう仕様がないと諦めかけると、清原君は俄に智慧を出して、今夜ここに早川雪洲夫人が来ているかと訊くと、来ているという。それでは早川君に頼んでなんとかしてもらいたいと、清原君が名刺を出して頼むと、女は承知して奥に這入りました。外ではまだ雨が降っています。そんな押問答をしているうちに、肝腎の松王劇が済んでしまっては詰まらないと思って、わたしは首を長くして内をのぞいていると、やがて女は再び出て来て、到底普通の椅子席はないが、立見同様でよければ案内して遣るという。それで結構とすぐに案内されて這入ると、なるほど会員組織らしい小劇場で、二階もなんにもない、極めて質素な小さい建物でした。しかし立派な服装の人たちが一杯に席を埋めていました。
 私たちは補助椅子といったようなものをあてがわれて、隅の方に小さく控えていると、第二の一幕物がもう終るところでした。プログラムを観ると…

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