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源氏物語
げんじものがたり
副題19 薄雲
19 うすぐも
著者
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 上巻」 角川文庫、角川書店
1971(昭和46)年8月10日改版
入力者上田英代
校正者kompass
公開 / 更新2003-08-15 / 2014-09-17
長さの目安約 37 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

さくら散る春の夕のうすぐもの涙とな
りて落つる心地に     (晶子)

 冬になって来て川沿いの家にいる人は心細い思いをすることが多く、気の落ち着くこともない日の続くのを、源氏も見かねて、
「これではたまらないだろう、私の言っている近い家へ引っ越す決心をなさい」
 と勧めるのであったが、「宿変へて待つにも見えずなりぬればつらき所の多くもあるかな」という歌のように、恋人の冷淡に思われることも地理的に斟酌をしなければならないと、しいて解釈してみずから慰めることなどもできなくなって、男の心を顕わに見なければならないことは苦痛であろうと明石は躊躇をしていた。
「あなたがいやなら姫君だけでもそうさせてはどう。こうしておくことは将来のためにどうかと思う。私はこの子の運命に予期していることがあるのだから、その暁を思うともったいない。西の対の人が姫君のことを知っていて、非常に見たがっているのです。しばらく、あの人に預けて、袴着の式なども公然二条の院でさせたいと私は思う」
 源氏はねんごろにこう言うのであったが、源氏がそう計らおうとするのでないかとは、明石が以前から想像していたことであったから、この言葉を聞くとはっと胸がとどろいた。
「よいお母様の子にしていただきましても、ほんとうのことは世間が知っていまして、何かと噂が立ちましては、ただ今の御親切がかえって悪い結果にならないでしょうか」
 手放しがたいように女は思うふうである。
「あなたが賛成しないのはもっともだけれど、継母の点で不安がったりはしないでおおきなさい。あの人は私の所へ来てずいぶん長くなるのだが、こんなかわいい者のできないのを寂しがってね、前斎宮などは幾つも年が違っていない方だけれど、娘として世話をすることに楽しみを見いだしているようなわけだから、ましてこんな無邪気な人にはどれほど深い愛を持つかしれない、と私が思うことのできる人ですよ」
 源氏は紫の女王の善良さを語った。それはほんとうであるに違いない、昔はどこへ源氏の愛は落ち着くものか想像もできないという噂が田舎にまで聞こえたものであった源氏の多情な、恋愛生活が清算されて、皆過去のことになったのは今の夫人を源氏が得たためであるから、だれよりもすぐれた女性に違いないと、こんなことを明石は考えて、何の価値もない自分は決してそうした夫人の競争者ではないが、京へ源氏に迎えられて自分が行けば、夫人に不快な存在と見られることがあるかもしれない。自分はどうなるもこうなるも同じことであるが、長い未来を持つ子は結局夫人の世話になることであろうから、それならば無心でいる今のうちに夫人の手へ譲ってしまおうかという考えが起こってきた。しかしまた気がかりでならないことであろうし、つれづれを慰めるものを失っては、自分は何によって日を送ろう、姫君がいるためにたまさかに訪ねてくれる源氏が、立…

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