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源氏物語
げんじものがたり
副題38 鈴虫
38 すずむし
著者
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 中巻」 角川文庫、角川書店
1971(昭和46)年11月30日改版
入力者上田英代
校正者kumi
公開 / 更新2004-03-24 / 2014-09-18
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

すずむしは釈迦牟尼仏のおん弟子の君
のためにと秋を浄むる   (晶子)

 夏の蓮の花の盛りに、でき上がった入道の姫宮の御持仏の供養が催されることになった。御念誦堂のいっさいの装飾と備え付けの道具は六条院のお志で寄進されてあった。柱にかける幡なども特別にお選びになった支那錦で作られてあった。紫夫人の手もとで調製された花机の被いは鹿の子染めを用いたものであるが、色も図柄も雅味に富んでいた。帳台の四方の帷を皆上げて、後ろのほうに法華経の曼陀羅を掛け、銀の華瓶に高く立華をあざやかに挿して供えてあった。仏前の名香には支那の百歩香がたかれてある。阿弥陀仏と脇士の菩薩が皆白檀で精巧な彫り物に現わされておいでになった。閼伽の具はことに小さく作られてあって、白玉と青玉で蓮の花の形にした幾つかの小香炉には蜂蜜の甘い香を退けた荷葉香が燻べられてある。経巻は六道を行く亡者のために六部お書かせになったのである。宮の持経は六条院がお手ずからお書きになったものである。これを御仏への結縁としてせめて愛する者二人が永久に導かれたい希望が御願文に述べられてあった。朝夕に読誦される阿弥陀経は支那の紙ではもろくていかがかと思召され、紙屋川の人をお呼び寄せになり特にお漉かせになった紙へ、この春ごろから熱心に書いておいでになったこの経巻は、片端を遠く見てさえ目がくらむ気のされるものであった。罫に引いた黄金の筋よりも墨の跡がはるかに輝いていた。軸、表紙、箱に用いられた好みの優雅さはことさらにいうまでもない。この巻き物は特に沈の木の華足の机に置いて、仏像を安置した帳台の中に飾ってあった。堂の準備ができて講師が座に着き行香をする若い殿上人などが皆そろった時に、院もその仏間のほうへおいでになろうとして、尼宮の西の庇のお座敷へまずはいって御覧になると、狭い気のするこの仮のお居間の中に、暑いほどにも着飾った女房が五、六十人集まっていた。童女などは北側の室の外の縁にまで出ているのである。火入れがたくさん出されてあって、薫香をけむいほど女房たちが煽ぎ散らしているそばへ院はお寄りになって、
「空だきというものは、どこで焚いているかわからないほうが感じのいいものだよ。富士の山頂よりももっとひどく煙の立っているのなどはよろしくない。説教の間は物音をさせずに静かに細かく話を聞かなければならないものだから、無遠慮に衣擦れや起ち居の音はなるべくたてぬようにするがいい」
 などと、例の軽率な若い女房などをお教えになった。宮は人気に押されておしまいになり、小さいお美しい姿をうつ伏せにしておいでになる。
「若君をここへ置かずに、どちらか遠い部屋へ抱いて行くがよい」
 とまた院は女房へ注意をあそばされた。北側の座敷との間も今日は襖子がはずされて御簾仕切りにしてあったが、そちらの室へ女房たちを皆お入れになって、院は尼宮に今日の儀式につい…

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