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源氏物語
げんじものがたり
副題39 夕霧一
39 ゆうぎりいち
著者
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 中巻」 角川文庫、角川書店
1971(昭和46)年11月30日改版
入力者上田英代
校正者柳沢成雄
公開 / 更新2004-03-27 / 2014-09-18
長さの目安約 52 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

つま戸より清き男の出づるころ後夜の
律師のまう上るころ    (晶子)

 一人の夫人の忠実な良人という評判があって、品行方正を標榜していた源左大将であったが、今は女二の宮に心を惹かれる人になって、世間体は故人への友情を忘れないふうに作りながら、引き続いて一条第をお訪ねすることをしていた。しかもこの状態から一歩を進めないではおかない覚悟が月日とともに堅くなっていった。一条の御息所も珍しい至誠の人であると、近ごろになってますます来訪者が少なく、寂れてゆく邸へしばしば足を運ぶ大将によって慰められていることが多いのであった。初めから求婚者として現われなかった自分が、急に変わった態度に出るのはきまりが悪い、ただ真心で尽くしているところをお認めになったなら、自然に宮のお心は自分へ向いてくるに違いないから時を待とうと、こう大将は思って一日も早く宮と御接近する機会を得たいとうかがい歩いているのである。宮が御自身でお話をあそばすようなことはまだ絶対にない。いつか好機会をとらえて自分の持つ熱情を直接にお告げすることもし、御様子もよく見たいと大将は心に願っていた。
 御息所は物怪で重く煩って小野という叡山の麓へ近い村にある別荘へ病床を移すようになった。以前から祈祷を頼みつけていて、物怪を追い払うのに得意な律師が叡山の寺にこもっていて、京へは当分出ない誓いを御仏にしたというのを招くのに都合がよかったからである。その日の幾つかの車とか前駆の人たちとかは皆大将からよこされた。かえって柏木の弟たちなどは自身のせわしさに紛れてか、そうした気はつかないふうであった。左大将は兄の未亡人の宮を得たい心でそれとなく申し込んだ時に、もってのほかであるというような強い拒絶的な態度をとられて以来、羞恥心から出入りもしなくなっているのである。それに比べて大将は非常に上手な方法をとったものといわねばならない。
 修法をさせていると聞いて大将は僧たちへ出す布施や浄衣の類までも細かに気をつけて山荘へ贈ったのであった。その際病人の御息所は返事を書くべくもない容体であったし、女房から挨拶書きなどを出しておいては、先方の好意が徹底しなかったもののようにお思いになるであろうし、宮様がお高ぶりになりすぎるようにもお思われになるであろうからと女房らがお願いしたために、宮が引き受けて礼状をお書きになった。美しい字のおおような短いお手紙ではあるが、なつかしい味のあるものであったから、いよいよ大将の心は傾いて、それ以後たびたびお手紙を差し上げるようになった。結局自分の疑いは疑いでなくなってゆきそうであると、雲井の雁夫人が早くも観察していることにはばかられて、大将は小野の山荘を訪ねたく思いながらも実行をしかねていた。
 八月の二十日ごろで、野のながめも面白いころなのであるから、山荘住まいをしておいでになる恋人を大将はお訪ねしたい…

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