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源氏物語
げんじものがたり
副題50 早蕨
50 さわらび
著者
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 下巻」 角川文庫、角川書店
1972(昭和47)年2月25日改版
入力者上田英代
校正者kompass
公開 / 更新2004-05-18 / 2014-09-18
長さの目安約 22 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

早蕨の歌を法師す君に似ずよき言葉を
ば知らぬめでたさ     (晶子)

「日の光林藪しわかねばいそのかみ古りにし里も花は咲きけり」と言われる春であったから、山荘のほとりのにおいやかになった光を見ても、宇治の中の君は、どうして自分は今まで生きていられたのであろうと、現在を夢のようにばかり思われた。四季時々の花の色も鳥の声も、明け暮れ共に見、共に聞き、それによって歌を作りかわすことをし、人生の心細さも苦しさも話し合うことで慰めを得ていた。それ以外に何の楽しみが自分にあったであろう、美しいとすることも、身にしむことも語って自身の感情を解してくれる姉君を、そのかたわらから死に奪われた人であったから、暗い気持ちをどうすることもできず、父宮のお亡れになった時の悲しみにややまさった悲しさ恋しさに、日のたつのも悟らぬほど歎き続けているが、命数には定まったものがあって、死にたくても死なれぬのも人生の悲哀の一つであると見られた。
 御寺の阿闍梨の所から、
年が変わりましてのちどんな御様子でおいでになりますか。御仏へのお祈りは始終いたしております。今になりましてはあなた様お一方のために幸福であれと念じ続けるばかりです。
 などという手紙を添え、蕨や土筆を風流な籠に入れ、その説明としては、
これは童子どもが山に捜して御仏にささげたものです、初物です。
 とも書かれてあった。悪筆で次の歌などは大形に一字ずつ離して書いてある。

君にとてあまたの年をつみしかば常を忘れぬ初蕨なり

女王様に読んでお聞かせ申してください。
 と女房あてにしてあった。一所懸命に考え出した歌であろうと想像されて、つたない中に言ってある心を身にしむように中の君は思い、筆任せに、それほど深くお思いにならぬことであろうと思われることを、多くの美しい言葉で飾ってお送りになる方の文よりもこのほうに心の引かれる気がして、涙さえこぼれてきたために、返事を自身で書いた。

この春はたれにか見せんなき人のかたみに摘める峰のさわらび

 使いには纏頭が出された。
 盛りの美しさを備えた人が、いろいろな物思いのために少し面痩せのしたのもかえって貴女らしい艶な趣の添ったように見え、総角の姫君にもよく似ていた。いっしょにいたころはどちらにも特殊な美しさがあって、似ているように見えなかったのであるが、今ではうかとしておれば大姫君であるという錯覚が起こるのを、遺骸だけでも永くとどめてながめていられるものだったならばと、朝夕に恋しがっていた源中納言の夫人になっておいでになればよかったものを、運命のそれを許さなかったのが惜しいと思い、女房たちは残念がっていた。薫の家のほうから始終出て来る人があってそちらのこともこちらの様子も双方でよく知っていた。まだ総角の姫君に死別した悲しみに茫然となっていて、涙目の人になっていると中納言のことの言われてい…

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