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源氏物語
げんじものがたり
副題53 浮舟
53 うきふね
著者
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 下巻」 角川文庫、角川書店
1972(昭和47)年2月25日改版
入力者上田英代
校正者柳沢成雄
公開 / 更新2005-03-07 / 2014-09-18
長さの目安約 93 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

何よりも危ふきものとかねて見し小舟の
中にみづからを置く     (晶子)

 兵部卿の宮は美しい人をほのかに御覧になったあの秋の夕べのことをどうしてもお忘れになることができなかった。たいした貴族の娘ではないらしかったが婉嬋とした美貌の人であったと、好色な方であったから、それきり消えるようにいなくなってしまったことを残念でたまらぬように思召しては、夫人に対しても、
「何でもない恋の遊戯をしようとするくらいのことにもあなたはよく嫉妬する、そんな人とは思わなかったのに」
 こんなふうにお言いになり、怨みをお洩らしになるおりおり、中の君は苦しくてありのままのことを言ってしまおうとも思わないではなかったが、妻の一人としての待遇はしていないにもせよ軽々しい情人とは思わずに愛して、世間の目にはつかぬようにと宇治へ隠してある妹の姫君のことを、お話ししても宮の御性情ではそのままにしてお置きにはなれまい、女房にでもそうした関係を結びたくおなりになった人の所へは無反省にそうした人の実家へまでもお出かけになるような多情さがおありになるのであるから、これはまして相当に月日もたつ今になっても思い込んでお忘れになれない相手であっては、必ず醜い事件をお起こしになるであろう、ほかから聞いておしまいになればそれはしかたがない、大将のためにも姫君のためにも不幸になるのを知っておいでになっても、それに遠慮のおできになる方ではないから、そうした場合に姫君が他人でない点で、自分は多く恥を覚えることであろう、何にもせよ自分のあやまりから悪いほうへ運命の進む動機は作るまいと反省して、宮の恋に同情はしながらも姫君の現在の境遇を語ろうとしなかった。上手な嘘で繕うことはできない性質であったから、表面は良人を恨み、深い嫉妬を内に抱いている世間並みの妻に見られているほかはなかった。
 薫の大将は恋人を信じて逢うことにあせりもせず、待ち遠に思うであろうと心苦しく思いやりながらも、行動の人目につきやすい大官になっている身では、何かの名目ができなくては行きにくい宇治の道であった。「恋しくば来ても見よかし千早振る神のいさむる道ならなくに」と抽象的に言われたその道よりもこの道のほうが困難であると言わねばならない。けれどもそのうちに自分は十分にその人をいたわる方法を考えている、宇治へ行って見る時に覚える憂鬱を消すためにその人を置いておきたいと思ったのが最初の考えなのであるから、しばらく滞留していてよい口実を作り、近いうちにゆるりとした気持ちで行って逢おう、そうして当分は隠れた妻としておき、彼女の心にも不安を感じさせないようにしてやり、自分のために非難の声が高く起こらないふうにして妻であることを自然に世間へ認めさせるのがよいであろう、にわかにだれの娘か、いつからというようなことを私議されるのも煩わしく初めの精神と違ってくる、ま…

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