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ソクラテス
ソクラテス
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「新渡戸稲造論集」 岩波文庫、岩波書店
2007(平成19)年5月16日
初出「中学世界 一四巻一号」博文館、1911(明治44)年1月1日
入力者田中哲郎
校正者ゆうき
公開 / 更新2011-02-16 / 2014-09-21
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

一 ソクラテスに依りて懐疑を解く

 私は十五、六歳の学生時代から、世の中のことに就て思い悩んでいた。たとえば、自分では正しいと思ってすることも、相手の気に障って、予想外の怒りや恨みを受けることもあるために、これからは、一体如何なる心掛けで人生を送ったら好いものかということに考え及ぶと、疑惑が百出して、何時も何時もその解決に苦んだ。然るに、その後、ふとソクラテスの伝記を読むに至って、私の満腔の崇拝心と愛好心は悉くこの偉人の上に濺がれるようになり、同時に、永年の懐疑も、頓に氷解するを得たのである。
 即ち友人間の交際にしても、あるいは一歩進んで、人生に処する上にも、手を下し、口を開く前には、一、二歩退いて、我儘の利己のためではないか、という事を慎重に反省してみる。しかして、いささかでもそういう気味を帯びておるとすれば、断然これを中止するのであるが、一旦、自分が是なり善なりと信ずるに於ては、それを実行するに寸刻の猶予もしない――こういうことを思って、頓てはこれを主義ともするようになった。
 私が理想的実行家としてリンコーンを愛好すると同じ程度に於て、ここに理想的思想家の真意義をソクラテスの人格に見出して、すべての他の偉人にも増して、これが尊崇の念を禁じ得ないのである。

二 真に言行一致の人

 ソクラテスの伝記書類は随分数多く読んだけれども、私の伝記研究は、学者のする学問のためではなく、常に応用的、いわば自分一個の精神修養を目的としたものであるから、勿論、システムなどは立っておらぬ。従って、ソクラテスを読んでも、着眼するところはその一点で、ソクラテスの哲学や何かに就ては、始めからあまり調べる気もしない。
 ソクラテスを読んで、一番に面白く思うところは、かのダイモンというものを常に信じて、絶えず、自分の心の中に、善悪邪正を区別する、我にあらざる一種の力を蔵している。訳してこれを鬼神とも称すべきか。とにかく、この一種の力が、たとえ自分の欲することでも、これを行為に顕わさんとする場合には、予めこの鬼神に伺いを立てて、允許を受けることにしていた。そして、もしその允許が出ない時には、結局実行を見合わすということになっていた。――これが私の注意を深く惹付けた点で、また私もかくあろうとして、平生から夙に戒心しているところである。
 私も随分無遠慮な口を利く方で、それが故には、如何なる時に、如何なる誤解を発生せしめ、如何なる迷惑を受けなければならないかも知れぬ。しかしながら、腹に確乎たる覚悟と信念とさえあるならば、さほどびくつくにも及ばない。ただし、考えてみれば、私などの主張するところは、存外穏やかなものである。一つの主義に固持して終世世に容れられなかった人もあり、あるいはソクラテスの如く刑罰に処せられたり、あるいは、大塩平八郎の如く、世に反抗して反叛を起したりするのに比べて…

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