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青い時計台
あおいとけいだい
作品ID50982
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「処女」1914(大正3)年6月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者ぷろぼの青空工作員チーム校正班
公開 / 更新2012-01-02 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 さよ子は毎日、晩方になりますと、二階の欄干によりかかって、外の景色をながめることが好きでありました。目のさめるような青葉に、風が当たって、海色をした空に星の光が見えてくると、遠く町の燈火が、乳色のもやのうちから、ちらちらとひらめいてきました。
 すると毎日、その時分になると、遠い町の方にあたって、なんともいえないよい音色が聞こえてきました。さよ子は、その音色に耳を澄ましました。
「なんの音色だろう。どこから聞こえてくるのだろう。」
と、独り言をして、いつまでも聞いていますと、そのうちに日がまったく暮れてしまって、広い地上が夜の色に包まれて、だんだん星の光がさえてくる時分になると、いつともなしに、その音色はかすかになって、消えてしまうのでありました。
 また明くる日の晩方になりますと、その音が聞こえてきました。その音は、にぎやかな感じのするうちに、悲しいところがありました。そして、そのほかのいろいろの音色から、独り離れていて、歌をうたっているように思われました。で、ここまで聞こえてくるには、いろいろのところを歩き、また抜けたりしてきたのであります。町の方には電車の音がしたり、また汽車の笛の音などもしているのでありました。
 さよ子は、よい音色の起こるところへ、いってみたいと思いました。けれども、まだ年もゆかないのに、そんな遠いところまで、しかも晩方から出かけていくのが恐ろしくて、ついにゆく気になれなかったのでありますが、ある日のこと、あまり遅くならないうちに、急いでいってみてこようと、ついに出かけたのでありました。



 さよ子は、草原の中につづいている小径の上にたたずんでは、幾たびとなく耳を傾けました。西の方の空には、日が沈んだ後の雲がほんのりとうす赤かった。さよ子は、電車の往来しているにぎやかな町にきましたときに、そのあたりの騒がしさのために、よい音色を聞きもらしてしまいました。これではいけないと思って、ふたたび静かなところに出て耳を澄ましますと、またはっきりと、よい音が聞こえてきましたから、今度は、その音のする方へずんずん歩いていきました。いつしか日はまったく暮れてしまって、空には月が出ました。
 さよ子は、かつて、きたことのないような町に出ました。西洋ふうの建物がならんでいて、通りには、柳の木などが植わっていました。けれども、なんとなく静かな町でありました。
 さよ子はその街の中を歩いてきますと、目の前に高い建物がありました。それは時計台で、塔の上に大きな時計があって、その時計のガラスに月の光がさして、その時計が真っ青に見えていました。下には窓があって、一つのガラス窓の中には、それは美しいものばかりがならべてありました。金銀の時計や、指輪や、赤・青・紫、いろいろの色の宝石が星のように輝いていました。また一つの窓からは、うすい桃色の光線がもれ…

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