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灰色の姉と桃色の妹
はいいろのあねとももいろのいもうと
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「愛国婦人 470号」1921(大正10)年6月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-11-30 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 あるところに、性質の異った姉妹がありました。同じ母の腹から産まれたとは、どうしても考えることができなかったほどであります。
 妹は、つねに桃色の着物をきていました。きわめて快活な性質でありますが、姉は灰色の着物をきて、きわめて沈んだ、口数の少ない性質でありました。
 二人は、ともに家を出ますけれど、すぐ門前から右と左に分かれてしまいます。そして、いつもいっしょにいることはありませんでした。妹は、広々とした、日のよく当たる野原にいきました。そこには、みつばちや、ちょうや、小鳥などが、彼女のくるのを待っているように、楽しく花の上を舞ったり、空を駆けていい声でないていました。
 いろいろな色に咲く花までが、彼女の姿を見ると、いっそう鮮やかに輝いて見えるのでありました。
 妹は、柔らかな草の上に腰を下ろしました。そして、しばらくうっとりとして、身の周囲に咲いている花や、ちょうにじっと見入っていましたが、しまいには、自分もなにかの唄を口ずさむのでありました。その唄はなんのうたであるか知らなかったけれど、きいていると楽しくうきたつうちにも、どこか悲しいところがこもっていました。
 妹は、唄にもあきてくると、懐から、紅い糸巻きを出して、その糸を解いて、銀の棒で編みはじめていました。銀の棒は日の光にきらきらとひらめきました。紅い糸は、解けては、緑の草の上にかかっていました。
 姉は、妹に別れて、独り北の方へ歩いていきました。そこは、一段低くがけとなっています。がけの下にはさびしい空き地があって、そこには、二、三本の憂鬱な常磐木が空にそびえていました。そして、その黒ずんだ木立の間に混じって、なんの木か知らないけれど、真っ白な花が咲いていました。
 その白い花の色は、ほかの色とちがって、冷たく、雪のように見えたのであります。姉は、がけを降りていきました。危うげな路が、がけにはついていたのであります。
 その空き地には、冬が残っていました。日の光すらさすのを避けているように、寒い風が、黒ずんだ常磐木の枝をゆすっています。姉は、白い花の咲いた木の下にたたずんでいました。そこには、なく鳥の声もきこえなければ、また飛びまわっているちょうの姿も見えませんでした。あたりは、しんとしている。姉は、なにを思い、なにを考えているのか、身動きすらせずに、黙って白い花の咲く木の下にたたずんでいました。
 姉は、ずっと脊が高かった。そして、黒い髪が、長く肩頭から垂れていました。彼女は、指先でその髪をいじっていました。その黒い髪は、つやつやしなかったけれど、なんとなく黒いへびのからんだように、気味悪く見られたのであります。
 陰気な姉は、少時は妹のことを忘れることができなかった。たとえ気質は異っていても、そして、こうしているところすら、別々であっても、妹のことを忘れることができなかった。それは、快活な…

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