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自分で困った百姓
じぶんでこまったひゃくしょう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「読売新聞」1920(大正9)年10月6~8日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-11-21 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 ある田舎に、二人の百姓が住んでおりました。平常はまことに仲よく暮らしていました。二人とも勉強家で、よく働いていましたから、毎年穀物はたくさんに穫れて、二人とも困るようなことはありませんでした。
 あるとき、甲は乙に向かっていいました。
「おたがいに達者で、働くことはできるし、それに毎年気候のぐあいもよくて、圃のものもたくさん穫れて、こんな幸福なことはない。いつまでも仲よく暮らして、おたがいに助け合わなければならん。」と、たばこに火をつけて、それを吸いながらいいました。
「ほんとうでございます。ほかに頼みになる人もおたがいにないのだから、助け合わなければなりません。」と、乙は答えました。
 太陽は、晴れやかに話をしている二人を照らしていました。二人は、のんきに、いつまでも仲よく話をしていました。そして、二人は別れて、おたがいに自分たちの圃にいって働きはじめました。
 二人の圃は、だいぶ離れていました。けれど毎年穀物は、ほとんど同じようによくできたのであります。
 二人は、圃に成長する穀物を見て、それをなによりの楽しみにいたしました。甲は乙の圃へゆき、乙はときどき甲の圃へきて、たがいに野菜や穀類の伸びたのをながめあって、ほめあったのであります。



 けれど、こうした野菜や、穀物というものは、かならずしも勤勉や土地にばかりよるものでありません。
 ある年、どうしたことか、乙の百姓のまいた芋のできが、たいそう悪うございました。乙は甲のところへやってきて、
「どういうものか、私のところの芋は、たいへんに不できだが、おまえさんのところの芋はどんなですかい。」といいました。
 甲は、この四、五日、ほかのほうに忙しくて、芋畑へいってみませんでした。
「さあ、どうなったか、明日いってこよう。」と答えたのであります。
 その明くる日、甲は自分の畑へいって芋のできを見ました。すると、いかにも元気よく生き生きとして、葉の色は黒光りを放っていました。
「乙のところの芋は、今年はすっかりだめだっていうが、俺のところの芋は、こんなによくできた。きっと乙の奴がうらやましがって、わけてくれろというだろう。」と、甲は独り言をもらしました。
 はたして、その年の芋の収穫は、いつものようにやはりよかったのであります。甲は、その芋をすっかり倉の中に入れて隠してしまいました。乙が見つけたら、きっと分けてくれろというだろうと考えると、甲は惜しくてたまらなかったのであります。



 小春日和の暖かな日のこと、乙は、また甲のところへやってきました。
「甲さん、今年の芋のできは、どんなでございましたか。」と聞きました。
 すると、甲は急にしおれたようすをして、
「ねっからだめでした。こんな不できなことはないものです。」と答えました。
 乙は、あたりを見まわして、
「それはそれは、私のところも…

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