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海ほおずき
うみほおずき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者本読み小僧
公開 / 更新2012-11-24 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 梅雨のうちに、花という花はたいていちってしまって、雨が上がると、いよいよ輝かしい夏がくるのであります。
 ちょうどその季節でありました。遠い、あちらにあたって、カン、カン、カンカラカンノカン、……という磬の音がきこえてきました。
「また、あのお祭りの時節になった。ほんとうに月日のたつのは早いものだ。」と、お母さんはいわれました。
 あや子はある日のこと、学校の帰り途に、その小さなお寺の境内にはいってみました。するとそこには、いろいろの店が出ていました。そして、子供らがたくさん、どの店の前にも集まっていました。赤い風船球を売っているのや、あめ屋や、またおもちゃなどを売っているのが目にはいりました。
 あや子はそれらの前を通りぬけて、にぎやかなところから、すこしさびしい裏通りに出ようとしますと、そこにも一人のおばあさんが店を出していました。やはり、駄菓子やおもちゃの類に、そのほか子供の好きそうなものを並べていました。あや子は、べつにそれまではなにもほしいとは思いませんでした。ただ、いろいろな店の前を過ぎて、それらをながめてきたのでありますが、いま、おばあさんの店の前にさしかかって、ふと歩みを止めたのであります。
 それは、一つのさらの中に、海ほおずきがぬれて光っていたからであります。
 あや子は、これがなんというものであるか知らなかったのです。ほおずきであろうとは思ったけれど、かつてこんな珍しいものは、見たことがなかったからです。
「おばあさん、これはなんというものですか。」と、あや子はほおを染めながら、店に腰をかけていたおばあさんにききました。
 おばあさんはもう、頭の髪の毛がだいぶ白くなっていて、人のよさそうなおばあさんでありましたから、あや子はつい、そういって聞く気になったのでした。
「これですか、海ほおずきですよ。ここらでは、めったに売っていませんよ。」と、おばあさんは答えました。
 あや子は、家へ帰ってからお母さんの許しを受けて、買おうと思いました。それで、途すがらも海ほおずきのことを、頭の中で考えながら歩いてきました。
 彼女は、あのたんぼにできる真紅なほおずきよりは、どんなに、この、海にある珍しいほおずきを、ほしいと思ったかしれませんでした。
「お母さん、海ほおずきを買ってきてもよろしゅうございますか。」と、あや子はお母さんにいいました。
「おまえがそんなにほしければ、用事をしまったらいっておいでなさい。」と、お母さんはいわれました。
 あや子が用事をすましますと、かれこれ晩方になったのであります。しかし、毎日、学校へゆく途すがらであり、また町つづきでありますから、急いでいってこようと家を出かけたのです。
 さっきまで、よく晴れていた空が、いつのまにか曇っていました。そして、もうすぐお寺が間近になった時分に、ぽつり、ぽつりと雨が落ちてきました。

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