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雪の上のおじいさん
ゆきのうえのおじいさん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
初出「童話」1922(大正11)年1月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者本読み小僧
公開 / 更新2014-05-28 / 2014-09-16
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ある村に、人のよいおじいさんがありました。ある日のこと、おじいさんは、用事があって、町へ出かけました。もう、長い間、おじいさんは、町に出たことがありませんでした。しかし、どうしてもいかなければならない用事がありましたので、つえをついて、自分の家を出ました。
 おじいさんは、幾つかの林のあいだを通り、また広々とした野原を過ぎました。小鳥が木のこずえに止まって鳴いていました。おじいさんは、おりおりつえをとめて休みました。もう、あたりの圃はさびしく枯れていました。そして、遠い、高い山々には、雪がきていました。おじいさんは早く町へいって、用事をすまして帰ろうと思いました。
 村から、町までは、五里あまりも隔たっていました。その間は、さびしい道で、おじいさんは、あまり知っている人たちにも出あいませんでした。
 やっと、おじいさんは、昼すこし過ぎたころ、その町に入りました。しばらくきてみなかった間に、町のようすもだいぶ変わっていました。おじいさんは、右を見、左をながめたりして、驚いていました。それもそのはず、おじいさんは、めったに村から出たことがなく、一日、村の中で働いていたからであります。
「私が、くわを持って、毎日、同じ圃を耕している間に、町はこんなに変わったのか、そして、この私までが、こんなに年をとってしまった。」と、おじいさんは、独りため息をもらしていたのです。
「私は、遊びに町へ出たのでない。早く用事をすまして、暗くならないうちに、村まで帰らなければならぬ。」と、おじいさんは思いました。
 そこで自分のたずねる場所をさがしていますと、公園の入り口に出ました。
 公園には、青々とした木がしげっていました。人々が忙しそうに、その前を通り抜けて、あちらの方へいってしまうものもあれば、また公園の中へ入ってくるもの、また、そこから出てゆくものなどが見えました。しかし、その人々は、みんな自分のことばかり考えて、だれも、その入り口のそばの木の下に立って、しくしくと泣いている子供のあることに気づきませんでした。またそれに気がついても、知らぬ顔をしてゆくものばかりでありました。
 このおじいさんは、しんせつな、人情深いおじいさんで、村にいるときも、近所の子供らから慕われているほどでありましたから、すぐに、その子供の泣いているのが目につきました。
「なんで、あの子は泣いているのだろう。」と、おじいさんは思いました。けれど、おじいさんは、用事を急いでいました。そして、早く用をたして、遠い自分の村に帰らなければなりませんのでした。いまは、それどころでないと思ったのでしょう。その子供のことが気にかかりながら、そこを通り過ぎてしまいました。
 しかし、いいおじいさんでありましたから、すぐに、その子供のことを忘れてしまうことができませんでした。いつまでも、子供の姿が目に残っていました。

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