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塩を載せた船
しおをのせたふね
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
初出「童話」1923(大正12)年5月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2014-02-21 / 2014-09-16
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 赤ん坊をおぶった、男の乞食が町へはいってきました。その男は、まだそんなに年をとったというほどではありませんでした。
 男の乞食は、りっぱな構えをした家の前へきますと、立ち止まって、考え込みました。それから、おそるおそる門の中へ入ってゆきました。
「どうか、なにかやってくださいまし。」と、声をふるわせて頼みました。
 しかし、家の中では、その小さい声が聞こえなかったものか、返事がありませんでした。
 乞食は、つぎには、もっと大きな声を出していいました。
「なにか、この哀れな子供にやってくださいまし。」といいました。すると、家の中から、声ばかりで、だれも、顔を出さずに、
「なにも、やるようなものはない!」と、しかるように答えました。
 その日は、どういうものか、乞食は、何家へいきましても、同じようなことをいって断られました。
「こんなに、りっぱな、大きな家に住んでいながら、くれるようなものがないとは、不思議なことだ。」と、乞食は、つくづく思わずにはいられませんでした。
 脊中におぶさっている赤ん坊が、腹が減ったので泣き出しました。乞食は、どうしたらいいか、ほんとうに困ってしまいました。
 太陽は、やがて西に傾きかかっています。その日の光をながめて、ぼんやりと思案にふけっていますと、太陽は、にこやかな円い顔をして、
「いつまでも、こんな人情のない町にいたのではしかたがない。早く、日の暮れないうちに、ほかの町へいったほうがいい。」と、諭しているように思われました。
 男の乞食は、自分たちに、不人情であった町をうらめしそうに、幾たびも見かえりながら、疲れた足をひきずって、とぼとぼと、また遠い道を歩いて、ほかの町をさしていったのであります。
 それから三日ばかりたちました。ある町をあるきまわっていますときに、乞食は、三日ばかり前に自分がたってきた町が、すっかり海嘯のためにさらわれてしまった、というようなうわさを聞きました。
 乞食は、夢のような気がしました。そして、あの町はどうなったろうと、りっぱな構えをした、いろいろな形をしていた家などを、目に思い浮かべたのであります。
「人間というものは、不幸にあわなければ、人情というものを悟るものでない。」と、彼は、いつか聞いた言葉を思い出しました。
「そうだ。あの不しんせつであった町の人々も、きっと思いあたったろう。いまごろはどんなにやさしい人たちになっているかしれない。きっと、手がなくて弱っているものもあろう。自分のようなものにも、される仕事がないとはかぎらない。どれ、ひとつ、その変わった町へもどってみようか。」と思いました。
 そして、彼は、いつも、自分の胸に思ったことは、はたしていいかどうであるかたずねてみるように、太陽を仰いだのであります。
 太陽は、あいかわらず、にこにことしていました。
「おまえが、そう思うならいっ…

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