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ものぐさなきつね
ものぐさなきつね
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
初出「読売新聞」1922(大正11)年1月23~25日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2014-01-25 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 星は、毎夜さびしい大空に輝いていました。そして下界を照らしていましたけれど、だれも星を見てなぐさめてくれるものとてなかったのです。星は、それを頼りないことに思っていました。
 鶏が、朝早く起きて、そのりこうそうな黒い瞳の中に、星影を映して、勇んで鳴いてくれなかったならば、星は、毎夜毎夜、音もない野原や、黒い村や、白く霧のかかった林や、ものすごい水の上を照らしていることが、もう飽き飽きして、まったくいやになってしまったにちがいありません。
 けれど、若々しい鶏の喜ばしそうな鳴き声を聞くと、星は、すべての長い夜の間の物憂かったことなどを忘れてしまいます。そうして、つい鶏の愛想のいいのに引き込まれて、いっしょに日の上らない朝の間を楽しく送るのでありました。
 そのうちに太陽が東の空を上ると、もはや鶏に別れを告げなければなりません。星はさも名残惜しそうにして、西の空に没してゆくのでありました。すると鶏も、もう鳴くのをやめてしまいます。
 こんなふうにして、星と鶏とはたいそう仲がよかったのです。星の黙って、ぴかぴかとしてお話をするのを、鶏は頭を傾けて聞いていました。そして鶏だけには、星のものをいうことがよくわかりました。また、鶏の鳴いていろいろなことを話すのも、星にはよくわかりました。
「まだ牛も馬も眠っています。私だけが起きたのです。」と、鶏は、大きな声を出して叫びます。またつぎに、
「いま、ようやく家の人たちは起きました。そして、勝手もとでガタガタ音をさせています。いま、ろうそくに火を点けて、裏口の方へ出てゆきます。きっと馬にまぐさをやるのでしょう。」と、鶏は告げていました。



 かくして、毎朝、星は夜の間に見た不思議なことを鶏に知らせ、また鶏は、村の中のできごとを星に知らせて、たがいに春から秋になるまで、長い間、仲のいい友だちであったのです。星がしめやかな言葉つきで、
「いま、寒い風が、あちらの遠い森の中で騒いでいる。」と、鶏に告げますと、鶏は、うなだれて体じゅうを円くしてちぢむのでした。
「しかし、鶏さん、私はおまえさんを毎晩守ってあげますよ。」と、星はいったのです。
 冬になって、雪が地の上に積もると、鶏は小舎の中に押し入れられてしまいました。そして外へ出ることを許されませんでした。
 哀れな鶏は、小舎の中にいて、どんなに怠屈をしたでしょう。ただじっとしていて、耳に聞くものは闇の中に狂う風と雪の音ばかりでありました。
「ああ、早く春になって、土を踏みたいもんだ。そして、あの優しい黄金色に輝く星の光を見たいものだ。春、夏、秋、なんという長い間、私たちはまた星とお話することができるだろう。楽しいことだ。」と、鶏は思いました。
 星はまた、毎夜限りない、しんとした雪の広野を照らしていました。ただ見るものは白い雪ばかりでした。そしてたまたま黒い森や、山…

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