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少年の日二景
しょうねんのひにけい
作品ID51583
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 13」 講談社
1977(昭和52)年11月10日
初出おどろき「台湾日日新報」1940(昭和15)年8月4日<br>伸びるもの「台湾日日新報」1940(昭和15)年8月6日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2018-05-21 / 2018-04-26
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

おどろき

 池の中には、黄色なすいれんが咲いていました。金魚の赤い姿が、水の上に浮いたりまるい葉蔭に隠れたりしていました。そして、池のあたりには、しだが茂り、ところどころ石などが置いてありました。
 勇ちゃんは、いかにも金魚たちが楽しそうに遊んでいるのをぼんやりながめていました。そのとき、やぶの方から垣根をくぐって、黒い一筋の糸のように、なにか走ってきたので、その方を見ると、大きなへびが、一ぴきのかえるを追いかけているのです。かえるは、いまにもへびに捕らえられようとしました。勇ちゃんは、考える暇もなく、庭先へ飛び降りて、へびをなぐろうと思って、太い棒を取り上げたのです。この間にかえるは、縁の下へ入ろうとしました。しかしへびは執念深く逃がすまいとしました。
 勇ちゃんは、力いっぱいたたきました。あわてていたので、棒はへびにあたらずに、強く地面をたたきました。するとへびは、かま首を上げて、勇ちゃんをにらみました。勇ちゃんは、なんだか怖ろしい気がしたが、こうなっては、かえってどうにかしなければならぬという気が起こって、また力を入れてたたきました。
 こんどは、へびの体にあたったので、へびは、飛び上がるようにして、そばにあった一本の小さな松の木に、それは目にも止まらぬ早さで、くるくる巻きついて、頭を体の間へ隠しました。これを見た勇ちゃんは、あまり真剣な姿に、気味悪くなって、もうこのうえへびをいじめる気にはなれなかったのです。
「さあ、もうたたかないから、早くあっちへいけよ。」と、勇ちゃんは、へびに向かって、いいました。
 へびは、そのままの姿で、身動きもせずに、じっとしていました。
「かえるは、どうしたろう。」と、見ると、これも、精根がつきはてたように、南天の木の下に、じっとしていました。
 勇ちゃんは、二ひきとも、かわいそうになりました。なんといっても、人間がいちばん強いのだ。だが、へびがかえるを食べようとしただけに、へびがわるいのだろうと、思ったのです。
「早くいきな、もうだいじょうぶだ。」と、かえるに、いいました。
 かえるは、助けてもらったのをありがたく思っているふうに見えたが、いつのまにかいなくなりました。まだへびは、そのままじっとして細い松の木に巻きついていました。
 勇ちゃんは、なんだか、いやな気がして、早くへびも逃げていってくれぬかと、遠くへはなれて、そのようすを見ていると、へびは、静かに、音をたてぬように、木から降りて、垣根の方へ向かいました。
「ああよかった。」と、勇ちゃんは、思いました。なぜなら、もしへびが池の中へ入ったら、どうしようかと思ったからです。そのうち、へびは垣根の横棒へはい上がり、その上を伝って、やぶの方へ姿を消してしまいました。
「かえるを助けてやって、いいことをしたな。」と、勇ちゃんは、心の中で、喜んでいました。
 晩方、お母…

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