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谷間のしじゅうから
たにまのしじゅうから
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 12」 講談社
1977(昭和52)年10月10日
初出「赤い鳥 鈴木三重吉追悼号」1936(昭和11)年10月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-03-20 / 2017-02-02
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 春のころ、一度この谷間を訪れたことのあるしじゅうからは、やがて涼風のたとうとする今日、谷川の岸にあった同じ石の上に降りて、なつかしそうに、あたりの景色をながめていたのであります。
 小鳥たちにとって、この二、三か月の間は、かなり長い間のことでありました。そのときは、やっと雪の消えたばかりで、見るものがすべて希望に燃え立っていきいきとしていました。しじゅうからは、葉のしげったかしの木を見つけて、巣をかけようかと、友だちと枝の間を飛びまわっていました。日光の射しぐあいなどをしらべなければならなかったからです。
 すると、かしの木は、不平らしい顔つきをして、
「承諾なしに、私の枝へ巣をかけてはいけません。」といいました。
 それは、無理のない言い分でありました。しじゅうからは、つい断るのを忘れてしまったのです。なぜなら、巣をかけることは鳥たちにとって、あたりまえのことで、わるいことと思っていなかったからでした。
「ごめんください。どうぞ私に、小さな枝を貸してくださいませんか?」と、頼みました。
「昨日も、美しいこまどりがきて、いろいろ頼んだのですけれど、どうも鳥に巣をかけさせると葉を汚して、いやになるから許さなかったのですよ。いっそすずめばちにでも貸してやったら、いたずら者が寄りつかなくていいかと思っているのです。」と、ごうまんないい方をして、かしの木は、答えました。
「あの、すごい剣を持っているすずめばちにですか?」
「そうですよ。」
 ちょうど、このとき、人の声がしたので、しじゅうからは、驚いて下を見ると、細い道を草を分けながら、おじいさんが、子供をつれて、まきを背負って、ふもとの方へ下っていくところでした。
「ああ、ここに、こんな人の通り道があったのか? あの臆病な、注意深いこまどりが、なんで頼んでも、こんなところへ巣をかけよう。」
 ししじゅうからは、この威張っているかしの木が、いいかげんなことをいっていると知りましたので、自分もここへ巣をかけるのは考え物だと思って、他の木へと移っていきました。
 彼の止まった、とちのきは、みごとな白い花を開いたばかりでした。
「しじゅうからさん、私の花と、あすこに咲いているうつぎの花と、どちらがきれいでしょう?」と、とちのきは、しじゅうからに向かって、ききました。
「さあ、あなたは、白い花ですし、あちらは紅い色ですね。どちらもみごとではありませんか?」
 しじゅうからは、なぜとちのきが、こんなつまらない問いを出したのかと疑わずにはいられなかったのです。
「いえ、昨日も旅の珍しい鳥が、ここへやってきましたが、私へは止まらなかったので、私は、悲しくてなりませんでした。」と、とちのきは、さも無念そうに、大きな葉をはたはたとふるわせていました。
「とちのきさん、あなたは、こんなに太いし、そして、高いではありませんか。きっと旅の…

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