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ねずみの冒険
ねずみのぼうけん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 12」 講談社
1977(昭和52)年10月10日
初出「小学四年生 17巻12号」1940(昭和15)年3月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-03-12 / 2017-01-12
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 一匹のねずみが、おとしにかかりました。夜中ごろ天井から降りて、勝手もとへ食べ物をあさりにいく途中、戸だなのそばに置かれた、おとしにかかったのです。空腹のねずみは、あぶらげの香ばしいにおいをかいで、我慢がしきれなかったものでした。ねずみは、そのせまい金網の中で、夜じゅう出口をさがしながら、あばれていました。夜が明けると、ねまきを着た、この家の主人が、奥からあらわれました。
「大きいねずみだな。こいつだ、このあいだから、そこらをガリガリかじったのは。」
 主人は、しばらく立って見ていました。
「どうしてくれようか。」
 ものぐさな主人は、自分の手で殺さずに、ねこに捕らえさせることを考えました。それで、ねずみの入ったおとしを下げて、外へ出ました。
 寒い朝で、路の上は白く乾いていました。前側の商店の小僧さんが、往来をはいていました。
「大きいやつが、かかりましたね。」と、ほうきを持つ手を休めて、ながめていました。
「ねこは、どうしました。」
「ねこですか? さあ、どこへいったか見えませんよ。」
「こいつをどうしようかな。」
「水の中へお入れなさい。」
「水の中へか。」
 主人は考えこんでいました。バケツに水を入れなければならない。おとしの入る大きなバケツでなくてはならぬ。それから、死んだねずみの処置もしなければならぬ。いろいろのことが頭に浮かんで、めんどうくさくなってしまいました。
「バケツに水を入れて、つけたらいいでしょう。」と、小僧さんが、いいました。
「それがさ、やっかいなことだ。外へ出して、なぐったら死ぬだろう。」
「それは、死にますがね、ふたを開けたら、逃げやしませんか?」
「それもそうだ。よほどうまくやらなければな。」
 こんな話をしているところへ、あちらから、自動車のブウ、ブウーという、警笛の音がしました。ものぐさな主人は、即座にいいことが思いついたのです。自動車にねずみをひき殺させようとしたのでした。
「これは、名案だ。」
 主人はぐるぐるとおとしを、ふりまわして、中のねずみに、目をまわさせました。そして、自動車が近づいたときに、ちょうど車の下になりそうなところを見はからって、ふいに、ねずみを出しました。
 驚いたのは、ねずみよりも自動車の運転手だったのです。正体のわからぬ、黒いものをひいてはたいへんだと思ったのでしょう、にわかにハンドルを曲げて、避けようとしました。だが、あまり急なために調子が狂って、片側の店頭へ突っ込んで、ガラス戸を破壊したのです。
 主人も、小僧さんも、ねずみどころの騒ぎでありません。そのほうに気を取られている間に、ねずみは、どこへか逃げてしまったのでした。
 助からぬ命と思ったねずみは、また天井裏のすみかに帰ることができました。しかし、ねずみは、これによって、人間というものは、自分たちのとうてい考えつかぬ不思議なことをする…

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