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朝の公園
あさのこうえん
作品ID52036
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
初出「台湾日日新報」1935(昭和10)年12月28日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2015-07-02 / 2015-05-24
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 それは、さむいさむい朝のことでした。女中のおはるは、赤いマントをきた、小さいお嬢さんをつれて、近くの公園へあそびにきました。そこはもう、朝日があたたかくてっていたからです。公園には、ぶらんこがあり、すべりだいがありました。もう子供たちがあつまって、笑ったりかけたりしていました。
 小さなお嬢さんは、ひとりであそんでいました。おはるはベンチに腰をかけて、もってきた少女雑誌を読んでいました。いなかにいるときから、本を読むのがすきでありましたので、こちらへきてからも毎月のお小づかいの中から雑誌を買って、おしごとのおわったあととか、ひまのときにはとり出して、読むのをたのしみにしていたのであります。
 いま、おはるは、その雑誌にのっている、少女小説をむちゅうになって読んでいました。あわれな家があって、感心な少女が病気の母親と弟をたすけてはたらく話が、かいてありました。しばらく、雑誌に目をおとしてかんがえこんでいると、ふいになきさけぶお嬢さんの声がきこえました。おはるは、はっとして立ちあがりました。見ると、お嬢さんはすべりだいからどうしておちたものか、泣いているのです。
「まあ、どうなすったのですか?」と、おどろいてとんでいきました。
 が、おはるがとんでいくよりも先に、みすぼらしいはんてん着の男がかけよって、お嬢さんをだきおこしてくれたのでした。
「おお、いい子、いい子。」といって、その男はなだめていました。
「ありがとうございました。」と、おはるはお礼をいって、
「お嬢さん、ころんだのですか、どこか痛くって?」とききますと、ちょっとおどろいたばかりとみえて、べつにけがはなかったようすです。
 おはるは、安心しました。そして、さっきの男の人をみると、むこうのベンチにもどって、ゆうべからこうしてじっとしているらしく、両腕をくんでうつむいているのでした。
「きっと、とまるところがなかったんだわ。」
 おはるは、このごろ、宿がなくて公園で夜をあかすあわれな人のあることをきいていました。それで、その人もそうであろうと思ったのです。
 おはるはお嬢さんをだいて、むこうがわのベンチに腰をおろしました。そして思いだしたように、ときどき、そのあわれな男のようすを見ていました。男はそんなことに気のつくはずもなく、いつまでもじっとしてうなだれていました。
「しごとがないのだろうか? それとも、年をとっていて、しごとができないのだろうか?」
 いろいろのことを考えながら見まもっているうちに、いつか自分の父親のすがたが、目にうかんできました。気のせいか、あの男のすがたのどこかにお父さんと似たところがあるようです。
「きょうだいもない、子供もない、ひとりものなのかしら?」
 そう考えているうちにおはるは、故郷ではたらく両親のすがたが、まざまざと目に見えるような気がして、この暮れにはなにかお父…

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