えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


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曠野
こうや
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
初出「民政」1933(昭和8)年8月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-06-13 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 野原の中に一本の松の木が立っていました。そのほかには目にとまるような木はなかったのです。
「どうして、こんなところに、ひとりぼっちでいるようになったのか。」
 木は自分の運命を考えましたけれど、わかりませんでした。そして、そんなことを考えることの、畢竟むだだということを知ったのです。
「ただ、自分は大きくなって、強く生きなければならない。」と思いました。
 見上げると、頭の上をおもしろそうに、白雲がゆるゆるとして流れてゆきました。
 また、あるときは美しい小鳥たちが、おもしろそうに話をしながら飛んでゆきました。しかし、雲も小鳥たちも、下に立っている木を見つけませんでした。
「小さくて、わからないのだな。」
 木は、ため息をついて叫んだほど、その存在を認められなかったのです。
 早く大きくなろうと木は思いました。認められたいばかりでなしに、地平線の遠方を見たかったからです。一年はたち、また一年はたつというふうに過ぎてゆきました。そして、この松の木が、すこしばかり根もとの地の上に、自分の小枝の影が造られるほどになったとき、その存在を認めてくれたのは、空をゆく雲でもなければまた小鳥たちでもありませんでした。それは、意地悪い風だったのです。伸びればますます強く荒く風はあたりました。
 かえりみると、この木が、野原で大きくなった歴史は、まったく風との戦いであったといえるでありましょう。木はけっしてこのことを忘れません。ある年、台風の襲ったとき、危うく根こぎになろうとしたのを、あくまで大地にしがみついたため、片枝を折られてしまいました。そして、醜い形となったが、より強く生きるという決心は、それ以来起こったのであります。いまは、もはや、どんなに大きな風が吹いても倒れはしないという自信がもてるようになりました。

「野原の一本松。」
 空をゆく雲や、頭の上を飛ぶ小鳥たちが、それを認めたばかりでない。ここを通る百姓もそういって呼べば、村の子供たちもみんな知っていたのであります。
 木は、こうして大きくなりました。しかし頭を上げて、地平線を望んだけれど、あちらに山の頂と、黒い森と、ぽつりぽつり人家を見るだけで、けっして、そのはてを見ることはできませんでした。また、青い空は、ますます高く、白い雲は、はるかに上を飛んでいるのであって、けっして、自分の頭のうえをすぎるときに、歩みをとめて、話しかけてくれるようなことはなかったのです。
 ただ、小鳥だけが、まれにきて枝にとまって翼を休めました。中でも渡り鳥は、旅の鳥でいろいろの話を知っていました。街の話もしてくれれば、港の話もしてくれました。もっときけばなんでも教えてくれるのであったが、松の木は、自らは経験のないことで、ただ渡り鳥のする話をきいて、世の中の広いということを悟るだけです。
「なぜ、私は、あなたのような鳥に生まれてこなかっ…

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