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古いてさげかご
ふるいてさげかご |
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作品ID | 52108 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 11」 講談社 1977(昭和52)年9月10日 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 酒井裕二 |
公開 / 更新 | 2016-09-24 / 2016-06-10 |
長さの目安 | 約 5 ページ(500字/頁で計算) |
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ずっと前には、ちょっと旅行するのにも、バスケットを下げてゆくというふうで、流行したものです。年ちゃんのお家に、その時分、お父さんや、お母さんが、お使いになった古いバスケットがありました。
年ちゃんが、ある年の夏、お母さんにつれられて田舎へいったときには、このバスケットにりんごや、お菓子を入れて持ってゆきました。そして、帰りには、お土産のほかに、海岸で拾った石ころや、貝がらなどを中へいれて、汽車に乗ると、このバスケットを網だなの上に載せておきました。
年ちゃんは、お母さんや、妹のたつ子さんと汽車の窓から、青々とした外の景色をながめていますと、遠い白雲の中で、ぽかぽかと電がしていました。そのとき、汽車は、全速力を出して走っていたので、頭の上の網だながギイギイと音をたてていました。そのたびに、バスケットも揺れています。年ちゃんは、
「あのかごに、青い石や、赤い貝がらが入っているのだな。」と、なんとなく楽しかったのでした。
お家へ帰ると、バスケットに入っていたものは、みんな出されてしまいました。
「もう、このかごは、使いませんね。」と、いって、お母さんは、バスケットを日に当てておしまいになりました。
その後のことでした。写真の入っている紙の箱が、写真を出したり、入れたりするうちにこわれたので、お母さんは、写真をこのバスケットの中へお移しになりました。写真入れとなったバスケットは、茶の間のたなの上に置かれたのでした。平常は、だれも、それに気をつけるものもなかったのです。
バスケットは、そこでほこりがかかり、だんだん古いうえにも古くなって、金具もさびてゆきました。
あるとき、お母さんは、たなの上をそうじなさってバスケットをお下ろしになりました。
「この中へ、なにが入っているでしょう?」と、お母さんは、写真が入っているのをお忘れになったのです。
「古い写真が入っているのよ。」と、お姉さんが、いいました。
「あ、そうだったね。」と、お母さんは、思い出しになりました。
「どれ、見ようか。」と、兄さんは、いって、バスケットをあちらへ持ってゆきました。
年ちゃんも、そのそばへゆきました。かわいそうに、バスケットの金具がとれかかっています。
「あ、かぎをかけるところが、こわれているよ。」と、年ちゃんが、いいました。
「いいよ、もう使わないのだから。」と、兄さんは、それを問題にしませんでした。
年ちゃんは、一昨年の夏、田舎へいったときのことを思い出しました。
「あのときは、まだバスケットは、こんなでなかったのになあ。」と、思うと、なんだか悲しくなりました。
「このはかまをはいているのが、お母さんなの?」と、お姉さんは、一枚の古い写真を取り上げていいました。
「そう、お母さんだ、お母さんにも、こんな時代があったのかなあ。」と、兄さんは、笑いながら、見つめていました。
…