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時差のないふたつの島
じさのないふたつのしま
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「時差のないふたつの島」 新潮文庫、新潮社
1987(昭和62)年3月25日
入力者八巻美恵
校正者三木野エマ
公開 / 更新2010-10-05 / 2014-09-21
長さの目安約 151 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 眠りから覚めて目を開くまでの時間は、ごく短い。二秒ないだろう。
 目を覚ましたぼくは、自分が寝ている場所の香りにあらためて気づき、いつもの自分の場所ではないところに自分が眠っていたことを認識しなおした。
 ぼくは、目を開いた。天井が見えた。見なれない天井のたたずまいに、部屋の香りはよく似合っていた。香りというよりも、匂いだろうか。ベッドに違和感があった。なれた自分のベッドではなかった。
 あおむけになっていた体を横にむけつつ、ぼくは上体を起こした。ベッドの縁にすわり、両足をフロアに降ろした。板張りのフロアの感触が、足の裏に新鮮だった。
 すわっているぼくの正面に、窓があった。幅のせまい何枚ものガラスのブラインドが、おたがいに平行な段になって、水平にかさなりあっていた。そのブラインドがつくる、横に細いいくつものすきまから、外が見えた。
 外には、午後まだ早い時間の、明るく強い陽ざしが充満していた。冬の東京から、ほんの数時間まえ、ぼくはこの島に来た。島は、北回帰線と北緯二〇度線とのちょうど中間に位置していた。
 立ちあがったぼくは、Tシャツを脱いだ。ブラインドの外の陽ざしは強くて暑そうだが、眠っているあいだ着ていたTシャツは、汗を吸っていなかった。この感触は、久しぶりだ。
 浴室へいき、ぼくはシャワーを浴びた。熱い湯を頭から浴び、顔を洗い体を洗っていくと、時差によって頭のなかがかすかにぼうっとした感じは、ほとんど消え去った。
 島の空港に着いてすぐに、ぼくはこのアパートメントまで来て、この部屋の新たなる入居者となり、部屋でする最初の作業として、時差ぼけをとるための昼寝をした。このアパートメントは、部屋代がきわめて安い。そして、居心地は悪くない。ぼくは、気にいっている。昼寝から目覚めた場所が、観光客用の普通のホテルの部屋ではないことを、ぼくはうれしく思った。そのような部屋では、時差ぼけがとれにくいようにぼくは思う。
 シャワーを終わり、体をタオルでぬぐった。タオルの香りに、懐かしさがあった。裸でキチンへいき、冷蔵庫を開き、缶ビールを一本、とり出した。プリモの12オンス缶だ。このビールは、かつてはこの島のアイエアで醸造されていたのだが、いまではカリフォルニア産だ。貴族の戦士を円形のなかに描いた下にあるリボンには、まだこの島のビールだった頃には、アイランド・ブリュード(この島での醸造)とうたってあった。いまでは、そのリボンのなかには、SINCE 1897と、創業の年号が記されているだけだ。そして、そのさらに下に、「この列島の偉大なる伝統をふまえて」という文句がそえてある。「この島での醸造」は、いつのまにか、「この列島の偉大なる伝統をふまえて」に、変わってしまった。





 プリモによって、時差ぼけのかすかな残りは、きれいに消えた。ぼくは、服を着た。十五年…

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