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くま
作品ID52239
副題笑劇 一幕
しょうげき ひとまく
原題МЕДВЕДЬ
著者チェーホフ アントン
翻訳者神西 清
文字遣い新字新仮名
底本 「チェーホフ全集 11」 中央公論社
1960(昭和35)年3月15日
入力者米田
校正者阿部哲也
公開 / 更新2011-03-13 / 2014-09-16
長さの目安約 33 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

――N・N・ソロフツォーフに捧げる



人物
ポポー[#挿絵](エレーナ・イ[#挿絵]ーノヴナ) 両頬にエクボのある若い未亡人、女地主
スミルノーフ(グリゴーリイ・ステパーノヴィチ) 中年の地主
ルカー ポポー[#挿絵]の従僕、老人

舞台は、ポポー[#挿絵]の地主屋敷の客間。




ポポー[#挿絵](大喪の服をきて、一葉の肖像写真から眼をはなさない)とルカー
ルカー 困りますなあ、奥さま。……それじゃ御自分の身を、じりじり滅ぼしておいでになるだけですよ。小間使も、おさんどんも、イチゴを採りに行きましたし、およそ息のあるものは、結構みんな楽しんでおりますよ。現にあの小猫でさえ、慰みごとはちゃんと心得ていて、庭をほつきまわっては、小鳥をとらまえていますのに、あなた様は日がな一んち、まるで尼寺にはいったみたいに、お部屋にこもりきりで、どだい気散じというものを、なさらない。全く、ほんとでございますよ! なにせ、もうこの一年というもの、うちから一あしも、おでましにならないなんて!……
ポポー[#挿絵] ああ、二度とふたたび、外へなんか出ないよ。……出てどうするのさ? わたしの一生は、もう終ったんだよ。あの人はお墓のなかに臥ている。わたしは、この四つの壁のなかに、自分を埋めている。……ふたりとも、死んでしまったのさ。
ルカー ほれ、またそれだ! ほんとに、もう聞きたくもない。ニコライ・ミハイロヴィチが亡くなったのは、そうなる因縁ごとで、つまり神さまの思召しでございますよ。――天国に安らわせたまえ。……あなた様も、これまでお歎きになりゃ、もう沢山で、世間体というものも、少しはお考えにならなけりゃあ。一生がい泣きとおしたり、喪服を着どおしたりで、暮らせるものじゃござんせん。……わたしも昔、ばあさんに死なれましたっけが……なあに、もう! ひと月ほどは、歎きも泣きもしましたけれど、それでまあ沢山でして、一生がい泣いて暮らすほど、有難いばあ様でもありませんでしたよ。(ため息をつく)ほんとに、近所のつきあいも、すっかり忘れてしまいなすった。……こっちからもお出かけがないし、向う様を呼ぼうともなさらない。こう申しちゃ失礼ですが、わしらの暮らしは、とんと蜘蛛みたようで、――日の目もろくろく拝めませんですよ。一張羅のお仕著せだって、鼠公に食われる始末で。……それで、立派なお人がいなさらんのならまだしも、この郡内と来たら、殿がたがキラ星のようにお揃いじゃござんせんか。……ルィブロヴォにゃ、聯隊が駐屯しとりまして、その士官さんたちといや――色とりどりのボンボンみたようで、見ても見飽きることじゃねえ! その営舎じゃ、金曜といや、かならず舞踏会があるし、それに、なにせ毎にち、軍楽隊がぶかぶかやっておりますよ。……やれまあ、奥さま! そのお若さで、そのご器量で、血にミルクをまぜたみたいな血…

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