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鳴門秘帖
なるとひちょう
副題03 木曾の巻
03 きそのまき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「鳴門秘帖(二)」 吉川英治歴史時代文庫3、講談社
1989(平成元)年9月11日
入力者門田裕志
校正者トレンドイースト
公開 / 更新2013-04-12 / 2014-09-16
長さの目安約 117 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

送り狼

 未明のうちに、本郷森川宿を出たお綱と万吉とが、中仙道をはかどって、もうそろそろ碓氷峠の姿や、浅間の噴煙を仰いでいようと思われる頃、――三日おくれて、同じ中仙道の宿駅に、三人づれの浪人を見ることができる。
 それが、例の、お十夜と、一角と周馬であった。
 こん度の旅は、無論、お綱と万吉のあとを追って、そのうえに、法月弦之丞を刺止めるまでの目的だろうに、わらじ、野袴、編笠という、本格の支度をしているのは天堂一角だけで、周馬は笠なし、お十夜は、笠もわらじも嫌いだといって、素のまま着流しに草履ばきという風態。
 まだ軽井沢ぐらいはいいが、それから先の和田峠、猪の字ヶ原の高原、木曾の※所[#「土へん+刀」、U+2F850、145-11]などへかかったら、どうする気だろうと思われるが、小手調べの碓氷峠でも、さして難儀な顔もみせないところは、お十夜も周馬も、旅にはひとかどの見識をもつものとみえる。
「はてな? ……まさか、おれたちの行く道が見当違いをしているのじゃあるまいな」
 上田の城下へ入る前に、追分の辻から佐久街道へ折れて、青々とした麦畑や、菜の花に染め分けられた耕地や森や、千曲の清冽などを見渡しながら、フイに、お十夜がこう言いだした。
「なぜ?」
 と、ふりかえったのは天堂一角。
 根岸の闇で、法月弦之丞にやられた太刀傷が致命にいたらなかったまでも、かなり深傷であったとみえて、いまだに左手を首に吊っているのが、いかにも暴勇な剣客らしく目立って、往来の者が必ず、ふりかえってゆく。
「冗談じゃアねえ」
 と、お十夜はふところ手で、
「もう江戸から四十里余り、三晩も泊りを重ねているのに、行っても行っても、万吉とお綱の姿が先に見当らねえじゃアねえか」
「そのことなら心配は無用だ。まさかに使屋の半次が、口から出放題なことを言いはしまい」
「それなら、もうたいがいに追いついている筈だが」
「イヤ大丈夫。実は小諸の立場で念入りに聞いておいたことがある。ちょうど、きのうの朝立ちで、それらしい二人づれが、間違いなくこの街道へ折れたという問屋場の話であった」
「ふウむ……そうか。すると今のところで、日数にしてたッた一日、道のりにして小十里しか離れていない勘定になる。それじゃ、もう一息で追いつけるだろう」
 と、お十夜の語気は、景趣の変化につれて旅らしい軽快をもってきたが、周馬は、いっこう面白くない顔で、どこかで折った桑の枝を、杖とも鞭ともつかずに持って、一番あとからおくれがちに歩いてくる。で、一角が、
「一服やろうではないか」
 千曲の板橋を渡るとすぐに、日当りのいい河原蓬へ腰をおろすと、
「よかろう――少し時間は惜しいが」
 とお十夜も煙草入れを出して、きれいな玉石を床几にとった。
「まだまだ先は永いから、そうあせるには及ぶまい。おい、旅川氏」
「なんだ」
「少し休息し…

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