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魚と白鳥
うおとはくちょう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
初出「童話」1924(大正13)年3月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者富田倫生
公開 / 更新2012-03-24 / 2014-09-16
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 河の中に、魚が、冬の間じっとしていました。水が、冷たく、そして、流れが急であったからであります。水の底は、暗く、陰気でありました。
 魚の子供は、長い間、こうして、じっとしていることに退屈をしてしまいました。早く、水の中を自由に泳ぎたいものだと、体をもじもじさしていました。
 けれど、母親は、よくいい諭したのであります。
「もうすこし辛棒しておいで、じきに春になる。そうすれば、水の上が明るくなって、水もあたたまりますよ。そうなったら、自由に泳ぐことを許してあげよう。」
 子供は、お母さんに、こういわれると、おとなしくしていなければなりませんでした。しかし、それは、元気のいい子供には、なかなか退屈なことでありました。
 ある日のこと、子供は、急に、頭の上が、赤く、ちらちらするのを見ました。子供は、喜んで躍りあがりました。
「なんという、赤い、明るい光だろう。春になったのだ!」と叫びました。子供は、すぐにも、その赤い光を慕っていこうとしました。
 すると、母親は、あわててそれを止めました。
「おまえ、あれは、月の光でも、太陽の光でもないのだよ。あれを見て、いこうものなら、たいへんなことだ。もう、おまえは、二度と私のところへは帰ってこられない。あの赤いのは、人間が、火をたいているのだよ。そして、私たちをだまして、水の上へ呼び寄せようとしているのです。もし、いってごらん。人間が、大きな網で、みんなすくってしまうから……。」と、いいきかせました。
 子供は、なんという怖ろしいことだろうと思いました。じっと、水の底に沈んで、暗い上の方で、一ところだけが、赤く、電のように、ちらちらと火花を散らしているのを、怖ろしげにながめていました。
「お母さん、春になると、どうなるのですか?」
と、子供は、いいました。
 子供は、去年の春、生まれたので、まだ、今年の春にはあわないのであります。すると、母親はいいました。
「春になると、水の上が、一面に明るくなるよ。けっして、あのように、一ところだけが、赤く、明るくなるというようなことがありません。」と、よく教えました。
 子供はそれから、暗い水の底を、お友だちと、あまり遠くへはいかずに、泳いでいました。なんといっても、水の底は暗いので、それに、そこばかりにいると飽きてしまって、早く、自由に、広い世界へ出てみたかったのです。
「ほんとうに、早く、春がくるといいな。」
と、子供は、お友だちに向かっていいました。
「春になると、水の上が一面に明るくなるということだから、よくわかるね。」
と、友だちは答えました。
「いったい、水の上から、上は、どんなところだろうか? 見たいものだね。」
「水の上へ浮かんで泳ぐと、空というものが見えるそうだ。その空に、太陽も輝けば、夜になると、月も出るのだということだよ。」と、友だちは、だれからか聞いたことを語…

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