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仔猫の裁判
こねこのさいばん
作品ID52998
著者槙本 楠郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 三〇巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「教育論叢」1933(昭和8)年5月
入力者菅野朋子
校正者雪森
公開 / 更新2014-07-22 / 2014-09-16
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

「こどもクラブ」では、日曜日ごとに、朝の九時半から正午まで、子供会がありました。このクラブは、町の大人たちのつくつてゐる「睦会」の二階で、六畳の間二つが、ぶつ通しになる明るい部屋でした。
 表の間の天井のまん中からは、色テープが八方に引きまはされ、それには、葡萄の葉や果がブラ下つたやうに、色さまざまの紙かざりが吊り下げてありました。折紙細工の鶴や舟や兜や股引や、切紙細工の花や魚やオモチヤや動物など、みんな子供会の手工の時間に作つたものです。
 壁際には三つの本箱が据ゑられ、それにみんなに寄付してもらつた、色々の本や雑誌がギツシリつまり、「資料箱」の上には、木琴や積木や智慧の環や、それから地球儀や、環投げ遊びの道具などもありました。
 壁には、子供会の写真や図画、それから「壁新聞」や「子供会ニユース」、ピクニツクのとき持つて行くリユツクサツクなど、いろいろのものが貼つたり、懸けてありました。
 だが、このキチンとした「こどもクラブ」も、今日は、ひどくかき乱され、子供会に集つた子供たちも、昂奮して立ちさわいでゐました。
「泥棒のしわざだ!」
「泥棒が凧なんか滅茶々々にするかしら?」
「地球儀がないぞツ。」
「頭だけここにあつたわよ。」
「足はないかア……地球儀の足々?……」
「凧のしつぽなら、ここにあらあ――」
「凧の骨も皮も、ここにありまアす。」
「犯人を引つぱり出せ!」
「凧を破つたのは誰だいツ?」
「誰か知つてる者はないかア?」
 男の子も女の子も、折角この前の日曜日の子供会でつくつた大凧を、何物かに滅茶々々にされて大騒ぎなんです。
「みんな静かにしてくれエ! みんな立ちさわがずに、坐つてくれたまへ。」
 表の間の窓際に立つたコドモ委員の一人が、手をふり上げてかう叫びました。すると他の子供たちも、同じやうに叫びました。
「みんな静かにしろツ!」
「みんな坐れエ!」
「オーライ! O・K!」
「シツ!」
「お静かに願ひます。ご順に前へおつめ下さい――」
「動きまアす、チン/\!」
 みんなドツと笑ひました。けれど、暫くするとみんな坐つて、窓際に立つてゐるコドモ委員の方を見つめました。
 コドモ委員は六人で、男の子も女の子も、みんな選挙された者です。その中で、一番脊の高い木村君が、みんなの鎮まるのを待つて、突つ立つたまま、かう云ひました。
「みんなの騒ぐのは無理もないと思ふが、でも、てんでにガヤ/\やつてたんぢや、いつまでたつても、きりがつかないと思ふ。そこでね、僕たちコドモ委員で相談したんだが、みんな、かういふことにしたらどうだらう。子供会の始まるまでには、まだ少し時間もあるし、先生も来てゐないんだから、それまでにみんなで、誰が僕たちのつくつた凧を滅茶々々にしたり、地球儀の足を折つたのか、それを考へ合つて見ようぢやないか? みんな、どうかね?」
「いいわ!」…

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