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石段に鉄管
いしだんにてっかん
作品ID53022
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 5」 講談社
1977(昭和52)年3月10日
初出「文芸戦線」1924(大正13)年12月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者雪森
公開 / 更新2013-05-29 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 秋の暮れ方のことであります。貧しい母親が二人の子供をつれて、街道を歩いて、町の方へきかかっていました。二人の子供は男の子でした。上が十一ばかり、そして、下は、まだ八つか、九つになったばかりであります。
 彼らはどこからきたものか、疲れていました。ことに二人の子供は足がくたびれたとみえて、重そうに足を引きずっていました。
 兄のほうは、それでも我慢をして、先になって歩いていました。弟のほうは、母親のたもとにすがったり、その体をまわったりして、ときどき、黙って歩いている母親の顔を仰いで、苦痛を訴えるのでした。
「ああ、もうすこしいったら、休ましてやるよ……。」と、母親はいいました。
 三人は、あまり、おそくならないうちに、町へはいりたかったのでありましょう。しかし小さな子供は、足が痛んで、どこででもいいから休みたかったのです。
 街道をいくと、傍に大きな屋敷がありました。道からすこしく高いところに、その家は建てられていたのでした。そして、石段が通り道から、そこまでついていました。石の上は白く乾いて、しめった黒っぽい土の面から浮き出ていました。
「ここへ腰かけて、休んでいきましょう……。」
 哀れな母親は、二人の子供を見まわしていいました。そこで母親を真ん中にして、兄は左に、弟は彼女の右に腰をかけたのであります。
 みすぼらしい着物は、ほこりにまみれていました。秋の晩方の空気は、ひやひやとして肌に迫り、木立の葉は色づきはじめて、日は、林のあちらに落ちかかっていました。三人の前には、さびれていく田園の景色がしみじみとながめられたのです。年上の子供は、黒い瞳をこらして、遠方をじっと物思わしげに見つめていました。どんなことを頭の中に考えていたでしょう? 弟のほうは、母親の体によりかかって、これとて無心でいました。日が暗くなった時分に、どうするかということも……、また今夜は、どんなところに宿るだろうということも、また、もうすこしたてば、いまそれほどに感じていないひもじさを訴えなければならぬということも知らぬげにみられました。けれど、哀れな母親には、とっくにそれがわかっていて、こうして休んでいる瞬間にも、胸を苦しめているのでありました。
 この三人は、石段の下から二、三段上のところに並んで腰をけていましたが、その前をいく人通りもまれとなったのです。ちょうど、母親が、切れかかったぞうりの鼻緒を直していたときです。石段の上から、男が、憎々しげにどなりました。
「ここは、乞食の休み場でない。さあ早く、あっちへいくんだ!」
 男は、両手を振って、三人を追いやるような手まねをしました。
 二人の子供は、すぐには、起てなかったのです。なぜなら、腰を下ろすとともに、疲れが一時に襲って、小さな足は、重くて、痛かったからでした。母親は、ぞうりをまだ手に持っていました。
「早く、うせんか。こ…

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