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木綿以前の事
もめんいぜんのこと
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「木綿以前の事」 岩波文庫、岩波書店
1979(昭和54)年2月16日
初出木綿以前の事「女性」1924(大正13)年10月、何を着ていたか「斯民家庭」1911(明治44)年6月、昔風と当世風「彰風会講演」1928(昭和3)年3月、働く人の着物「旅と伝説」1936(昭和11)年7月、国民服の問題「被服」1939(昭和14)年5月、団子と昔話「ひだびと」1936(昭和11)年3月、餅と臼と擂鉢「社会経済史学」1934(昭和9)年1月、家の光「家の光」1926(大正15)年2月、囲炉俚談「文学」1935(昭和10)年3月、火吹竹のことなど「知性」1939(昭和14)年4月、女と煙草「ひだびと」1939(昭和14)年2月、酒の飲みようの変遷「改造」1939(昭和14)年2月、凡人文芸「短歌研究」1934(昭和9)年2月、古宇利島の物語「短歌民族」1933(昭和8)年5月、遊行女婦のこと「俳句研究」1934(昭和9)年4月、寡婦と農業「農業経済研究」1929(昭和4)年10月、山伏と島流し「俳句講座」1932(昭和7)年8月、生活の俳諧「第一高等学校講演」1937(昭和12)年12月、女性史学「実践女学校講演」1934(昭和9)年7月、女性史学「民間伝承」1936(昭和11)年3月
入力者Nana ohbe
校正者川山隆
公開 / 更新2013-07-04 / 2014-09-16
長さの目安約 358 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

自序



 女と俳諧、この二つは何の関係も無いもののように、今までは考えられておりました。しかし古くから日本に伝わっている文学の中で、是ほど自由にまたさまざまの女性を、観察し描写し且つ同情したものは他にありません。女を問題とせぬ物語というものは昔も今も、捜して見出すほどしか無いといわれておりますが、それはみな一流の佳人と才子、または少なくとも選抜せられた或る男女の仲らいを叙べたものでありました。これに反して俳諧は、なんでもない只の人、極度に平凡に活きている家刀自、もっと進んでは乞食、盗人の妻までを、俳諧であるが故に考えてみようとしているのであります。歴史には尼将軍、淀の方という類の婦人が、稀々には出て働いておりまして、国の幸福がこれによって左右せられたこともありますが、こういう人たちをわが仲間のうちと考えて、歴史に興味を抱くようになった女性の、少なかったのはまことに已むを得ません。振り回って後姿を眺めようとするような心持が、女と歴史とのすれちがいには起こらなかったのであります。有りとあらゆる前代の人の身の上は、小説の中にすらも皆は伝わっておりません。それを俳諧だけが残りなく、見渡し採り上げて咏歎しようとしていたのであります。女は通例自分たちの事を噂せられるのを、知らずに過ぎるということはないものですが、奇妙に俳諧だけは冷淡視していました。その原因は御承知のごとく、俳諧というものが連歌の法式を受け継いで、初めの表の六句ではなるべく女性を問題とせず、特に恋愛は取扱わぬことにしていまして、そうして今日俳諧として鑑賞せられているのが、そのまた第一の句だけであったからであります。店先にはまじめくさった年輩の男たちばかり出入しているのを見て、これは女などには用の無いところと、奥には何があるのかを覗いて見ようともせずに、素通りした人の多かったのも無理はありませんが、実はその暖簾の陰にこそ、紅紫とりどりの女の歴史が、画かれてあったのであります。歴史にこの無数無名の二千年間の母や姉妹が、黙って参与していたことを信ずる者は、これを説くためにも俳諧を引用しなければなりません。そうして私がこの意外なる知識を掲げて、人を新たなる好奇心へ誘いこむ計略も、白状をすればまた俳諧からこれを学びました。
『七部集』は三十何年来の私の愛読書であります。これを道案内に頼んでこの時代の俳諧の、近頃活字になったものも追々に読んでみました。その折々の心覚えを書き留めておいたのを、近頃取出して並べて見ますと、大部分は女性の問題であったことが、自分にも興味を感じられます。それで二三の関係ある文章を取添えて、一冊の本にすることにしたのであります。大抵は人に語りまたは何かの集まりに話をしたものの手控えのままなので、聴手の種類や年齢に応じて、表現の形が少しずつかわり、文章も大分不揃いであります。それがこの書を「…

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