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出征
しゅっせい
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「槇村浩詩集」 平和資料館・草の家、飛鳥出版室
2003(平成15)年3月15日
初出「赤い銃火」1932(昭和7年)年4月
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2014-10-04 / 2015-03-14
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

今宵電車は進行を止め、バスは傾いたまゝ動かうともせぬ
沿道の両側は雪崩れうつ群衆、提灯と小旗は濤のように蜒り
歓呼の声が怒濤のように跳ね返るなかをおれたちは次々にアーチを潜り、舗道を踏んで
いま駅前の広場に急ぐ

おゝ、不思議ではないか
かくも万歳の声がおれたちを包み
おれたちの旅が
かくも民衆の怒雷の歓呼に送られるとは!

春の街は人いきれにむれ返り
銃を持つ手に熱気さへ伝はる
火の海のやうな市街を見詰めながら、おれはふと思ふ
おれたちこそ
苦闘する中国の兄弟に送られた××(1)の×(2)軍
国境を越えて共に暴圧の鎖を断ち切る自由の戦士!
いま丘を越え
海を越えて
武器を携え急×(3)に赴くおれたちではないかと

けたゝましく響く喇叭の音におれはふと我に返る
 (……蒋介石ごときは問題ではない
 (わが敵はただ第十九路軍……
砂風の吹き荒れる営庭で、拳を固めて怒鳴った肥っちょ聯隊長の姿が、
烈しい憎悪と共にまざ/\と眼の前に浮ぶ
おゝ第十九路軍
屈辱と飢餓の南京政府を蹴飛ばして
下からの兵士の力で作り上げた×(4)衛軍
狼狽する蒋介石を尻目にかけ、敢然と××(5)政府に戦ひを宣した
英雄的な中国のプロレタリアートと貧農の決死隊
きみらの隊列の進むところ
××××(6)の××(7)は惨敗し
土豪・劣紳・買弁が影を潜めた
よし!
×(8)仏英米の強盗ともが、君たちに陣地を棄てよとジュネーヴから命じようと
よし!
妥協した帝国主義者共の大軍が君たちに襲ひ掛からうと
君たち第十九路軍の背後には中国ソヴェート政府が厳存し
君たちの前には
全世界の同志の差し出す無数の腕がある

歩廊に整列し
スナップを踏んでおれたちは乗車する
おれの頭を掠めるは残された同志
あの路地の屋根裏で
Kは今夜もガリ版を切り
Dは円い眼鏡の奥から、人なつこい笑いを覗かせながらビラを刷り
Tは膝の上に「無新」を載せ、黙りこくって糊を煮てゐるだらう
おゝ――それとも
きみらは今宵群衆の中に潜り込み
栗鼠のようにすばしこく、人人の手から手へ反×(9)のビラを渡してゐるのか

欺かれた民衆よ
粧われた感激よ
祝福された兵士たちの何と顔色の蒼いことか
万歳の声に顔をそむけて眼鏡を曇らすおまへ
白布にくるんだ銃を杖に突いてぢっと考へ込むおまへ
とってつけたやうな哄笑で話題を女の話に外らせようとするおまへ
そして恐らくは彼方の車の中で、ごった返す荷物に腰を下ろし馬の首を抱いて泣き濡れてゐるであらうおまへ
枯れた田地と
失業に脅える工場を後に残して
一枚の召集状でむりやりに×××(10)行かれるおまへらにとって、顔色の蒼いのは無理ではない
―――だが
今宵おれの胸は嬉しさに膨らみ
心臓は喜びにどきんどきんと鼓動をうつ
おれの喜びは、生れて始めてすばらしい武器を手にしたプロレタリアートの喜びだ!
おれの嬉しさ…

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