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語呂の論理
ごろのろんり
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎随筆集」 岩波文庫、岩波書店
1988(昭和63)年9月16日
初出「中央公論」1938(昭和13)年12月1日
入力者門田裕志
校正者川山隆
公開 / 更新2013-03-29 / 2014-09-16
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 先年北海道で雪の研究に手を付けた時、日本の昔の雪の研究として有名な、土井利位の『雪華図説』と鈴木牧之の『北越雪譜』とを何とかして手に入れたいものと思って、古書の専門店の方へも聞き合せたことがあったが、折悪しくどうも手に入らないので困っていた。ところが、何思わずそういう意味のことを雑文の中に書いておいたら、早速それでは私のところにあるものを御頒けしましょうと言って下さった人があった。
 一人は秋田の人で、文久二年大槻磐渓先生の重刻になる『雪華図説』が送られて来た。もう一人は九州の人で『北越雪譜』の七冊揃いの大変保存のよい本が幸運にも手に入ったわけである。もっともその後間もなくこの『北越雪譜』の方は岩波文庫に出て、手軽に誰にも手に入ることになったのであるが、こういう本もなかなか面白いものである。『雪華図説』の方は案外立派な研究で、天保時代の日本の自然研究者の仕事も、よく見ると、色々学ぶべき点があるという意味で特に私には興味があった。『北越雪譜』の方は、昔の雪国の生活の記録が沢山集っているという点で科学的に見ても大切なものであるが、その一番大切な所以は、当時の人々の雪害防止策と、現代の東北や越後地方の人々の採っている対策とが、殆んど同じものであって、現代日本の文化的あるいは科学的の施設が、これらの地方には殆んど及んでいないということが分る点にあるのである。
 もっともそういう話は、雪国出の政治家などがいわれた方が適切なのであって、私にとってもっと面白く思われたのは、『北越雪譜』の中の理論的説明に用いられている一種の論理学であった。徳川時代といっても、天保の頃にもなれば、もう西洋の学問も入っているので、特にその頃の先進者たちの頭の中には、西洋学的な物の考え方即ち現代のわれわれの物の考え方が充分はいって来ていたようである。例えば『天地或問珍』のような本の中の自然現象の説明に用いられている広い意味での論理学は、現在の自然科学に用いられているものと、その骨組においては先ず同じものと見て差支えないようである。ところが、この『北越雪譜』の著者鈴木牧之翁は、越後の塩沢の商人で、時々商用で上京した時に当時のいわゆる文人雅客と交りを結んではいたものの、その全生涯は殆んど越後の雪の中で送られたものと見て差支えない。
 こういう北陸の片田舎で育ち、西欧の自然科学的な物の考え方からすっかりかけ離れて生長した人の持っている「自然科学」の一面を見るためには、あるいは『北越雪譜』のようなものが案外良い資料になるのかも知れない。そして私にはこの『北越雪譜』の中に出て来る論理が、何となく純粋に日本的あるいは東洋的なものという気がして大変面白かった。
 第一節は「地気雪と成る弁」であって、天地の間に、三つの際があって、地に近い温際から地気が昇って行って冷際に到って、温かなる気が消えて雨や雪になると…

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