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〔ながれたり〕
〔ながれたり〕
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「新修宮沢賢治全集 第六巻」 筑摩書房
1980(昭和55)年2月15日
入力者junk
校正者土屋隆
公開 / 更新2011-07-02 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


ながれたり
  夜はあやしく陥りて
  ゆらぎ出でしは一むらの
  陰極線の盲あかり
  また螢光の青らむと
  かなしく白き偏光の類
ましろに寒き川のさま
地平わづかに赤らむは
あかつきとこそ覚ゆなれ
    (そもこれはいづちの川のけしきぞも)
げにながれたり水のいろ
ながれたりげに水のいろ
このあかつきの水のさま
はてさへしらにながれたり
    (そもこれはいづちの川のけしきぞも)
明るくかろき水のさま
寒くあかるき水のさま
    (水いろなせる川の水
     水いろ川の川水を
     何かはしらねみづいろの
     かたちあるものながれ行く)
青ざめし人と屍 数もしら
水にもまれてくだり行く
水いろの水と屍 数もしら
    (流れたりげに流れたり)
また下りくる大筏
まなじり深く鼻高く
腕うちくみてみめぐらし
一人の男うち座する
見ずや筏は水いろの
屍よりぞ組み成さる

髪みだれたるわかものの
筏のはじにとりつけば
筏のあるじ瞳赤く
頬にひらめくいかりして
わかものの手を解き去りぬ

げにながれたり水のいろ
ながれたりげに水のいろ
このあかつきの水のさま
はてさへしらにながれたり

共にあをざめ救はんと
流れの中に相寄れる
今は却りて争へば
その髪みだれ行けるあり
    (対岸の空うち爛れ
     赤きは何のけしきぞも)
流れたりげに流れたり
はてさへしらにながるれば
わが眼はつかれいまはさて
ものおしなべてうちかすみ
たゞほのじろの川水と
うすらあかるきそらのさま
おゝ頭ばかり頭ばかり
きりきりきりとはぎしりし
流れを切りてくるもあり

死人の肩を噛めるもの
さらに死人のせを噛めば
さめて怒れるものもあり

ながれたりげにながれたり
川水軽くかゞやきて
たゞ速かにながれたり
    (そもこれはいづちの川のけしきぞも
     人と屍と群れながれたり)

あゝ流れたり流れたり
水いろなせる屍と
人とをのせて水いろの
水ははてなく流れたり



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