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〔馬行き人行き自転車行きて〕
〔うまゆきひとゆきじてんしゃゆきて〕
作品ID53390
著者宮沢 賢治
文字遣い新字旧仮名
底本 「新修宮沢賢治全集 第六巻」 筑摩書房
1980(昭和55)年2月15日
入力者junk
校正者土屋隆
公開 / 更新2011-07-16 / 2014-09-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


馬行き人行き自転車行きて
しばし粉雪の風吹けり

絣合羽につまごはき
物噛むごとくたゝずみて
大売り出しのビラ読む翁
まなこをめぐる輻状の皺

楽隊の音からおもてを見れば
雲は傷れて眼痛む
西洋料理支那料理の
三色文字は赤より暮るゝ

馬が一疋東へ行く
古びた荷繩をぶらさげて
雪みちをふむ
引いて行くのはまだ頬の円いこども
兵隊外套が長過ぎるので
繩でしばつてたごめてゐる

政友会の親分の
手を綿入の袖に入れ
身内一分のすきもなき
じろりと過ぐる眼はわびし
          冬の陰影

絣の合羽にわらぢばき
もんぱぼうしに額づゝみ
物噛むごとく売りだしの
ビラに向へるまなこをめぐり
皺はさながら後光のごとき
眼のうす赤いぢいさんが
読んでゐるのか見てゐるか

こたびはこども砂糖屋の
家のこどもがスケートの
手をふりまはしてすべり行くなり

自転車ひきて出できたるかな林光原
出前をさげてひらと乗り
走りて去ればはるかなる
活動写真の暮れの楽隊



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