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野兎の歌
のうさぎのうた
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「槇村浩詩集」 平和資料館・草の家、飛鳥出版室
2003(平成15)年3月15日
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2015-06-09 / 2015-05-03
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


(ふん、芸術家ってものは、獄中ですらきれ/″\ながら守りたてゝいる組織を、あまり勝手に外で、解散しすぎるぢゃないか。そんな組織なら連袂脱盟して政治専一にしろよ。――と言った別れしなの獄内の同志の言葉を僕はなだめかねた。)

ある特殊の野兎たちは
集まり、手分けし
野兎たちを組織し
できるだけ多くの同僚を野兎にしようとする
彼等は前足の陰のみづかきみたいなもので
まじめに何かしきりに、書いては消し、消しては書きする
野兎は芸術をもっている!

野兎は火のもえた、炉ばたと野兎の畠を荒らす、黒い頬冠りをした猟師たちに宣戦した
野兎は猟師のように、山刀と鉄砲を持ち、猟師のように整然たる隊伍をもちたいと思った
だが、野兎は束にしてひっくゝられ、猟師の四角や六角の穴倉にひったてられた
穴倉の野兎は
手錠をはめられたみづかきの先をびく/\ひきつらせながら彼等の詩を歌いつゞけた
残されたすみかの野兎は
ちらばった部署の陰で、彼等のみづかきをあげて
陰から猟師にはいちゃいした

野兎のあるものは
みづかきを不自由にされていることは、生活を不自由にされていることよりも辛いと思った
野兎はみづかきを持つことが、野兎の種の特徴としてあるまじきことを宣言し
家犬えの非合法な脱獄が
野兎からの合法的な脱獄だとしゃれこんだ

だが野兎は芸術を持っている!
月日がたち
殺されたゞけの真率な野兎は
傷づけられたみづかきをいたわりあいながら
昔の家え帰ってきた
野兎は小さいいろりの傍で、お休みになっている彼等の生活を見た
猟師の畠はやはり野兎の畠だった―――
だが野兎のあるものはみづかきを隠し合い
お互を見せずに、めい/\に探るような目ざしを投げ合った

私の野兎は
親しい、だが見知らぬ国に来たような気がした
生活のための賢明な脱落者は思ったより少なかった
―――だがそれは大したことではない―――
問題はこゝにある! と思った
脱落の代りに
解散の声明を書くとは、何と賢明な方法だろう―――と
檻の中でさえ消滅しなかった組織がどこで消滅しうるか?
………書店の棚につまれたサヴェートの報告書は、組織からの脱落者の記述で終っていた………
「同志藤森成吉、片岡鉄兵はプロレタリア芸術からの脱退を声明した」
信じがたい………だが、こんな野兎もある!
若い野兎はぺっと唾を吐き
みづかきを撫でながら、曲げられぬ組織者の数を数えはじめた



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