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手をさし延べよう!
てをさしのべよう!
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」 新日本出版社
1987(昭和62)年5月25日
初出「鎖」1923(大正12)年7月号
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2016-01-09 / 2016-01-01
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


食慾が針のように
空らっぽの胃を刺激する
かつての日の満腹は夢のようだ
生きるために食うのか?
食うために生きるのか?
どちらでもいい ここで議論は胃を満たさない
おれたちは飢え渇えている

凧! 糸の切れた凧だ!
生存が切断される 同志よ
おれたちは要求する 一握のめしを! 麺麭を!
おれたちは食物を乞うのでない
生きてるゆえに 飢え渇えている者の要求だ
おれたちは団結しよう! 生存を脅かされている同志よ
力は団結の上に!

生産者は飢え貧困は骨を肉をそいでいる
搾取者は満腹し豚のように喘いでいる
飢えたる同志よ 要求しよう 俺達の生存を!
反抗し 幕をたたっきれ!
鎖を! 重い鍵を!
覆える白き手を!

自動車の爆音が
美装した貴婦人の着物が 指環が
おれたちの頭上で舞踏している
ダンス・マカーブル、……グルルル……
ロンド!
その足踏が!
おれたちの胃の腑を空らっぽにしたんだ
慾望が忍従を棄てて生長した
燃える食慾 空らっぽの胃の腑は夢をみる
何?……何!

団結! その力の勝利!
おれたちの手に麺麭!
誰から? おれたちの握り合った手だ
神 僧侶 寺院 政府 資本家
そいつらからめしが麺麭が来たか?
いや、おれたちの手で おれたちの力で
同志よ! 掠奪された麺麭を握ろう

恩恵の一滴は過去の夢だ
慈善の報告が誇らかに巷に伝わっている
だが
ああ 日々おれたちは食慾に追跡されて
空らっぽの胃をたずさえて都会の街路を彷徨する

無数の慈善院 養老院 孤児院 施設病院
そいつらは高い看板を都会から始って地方に立てている

搾取者の寄付金か? くそ!
いかめしい施療病院の煩雑な規則に
貧しい病人が殺されているんだ

敗残者の手が橋の上で食物を乞うている
疲れ 餓えた老人と子供の目が
芥箱を探り 街路にうつむいている
工場で蒼白い女工が死んだ 男工の自殺だ
かれらの遺族がヒステリックに泣いている
都会へ密集した田舎の失業者は
狼――人夫請負業者に遠い北海道の雪の中に虐殺されている
無宿者は公園の露台の上に!
そのむさぼる夢は警官の剣に脅えている

肥った人は肥ってゆき
瘠せた人は死んでゆく
この対照 この事実!

ああ食慾は針のようだ
食物を求めて開いたおれたちの口は塞がらない
満腹の期待は空しく裏切られて 空腹だ
餓えた胃は食物をかつ望する
旱魃の[#「旱魃の」は底本では「早魃の」]土地は水分を期待する

おお あの倉庫には食料品が充満している
路傍の商店には食物が陳列されている
だがおれたちは日々に餓えている
餓えたる同志よ! 団結だ! 生存の主張だ
団結こそ力の原動力だ
無数のおれたちの手をさし延べて倉庫に積まれた食料を握ろう
(『鎖』一九二三年七月号に発表 『陀田勘助詩集』を底本)



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