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歩哨戦
ほしょうせん
作品ID54066
著者今村 恒夫
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」 新日本出版社
1987(昭和62)年6月30日
初出「文芸戦線」1929(昭和4)年6月号
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2014-07-03 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


悪検閲制度をぶっ潰せ
検閲制度改正期成同盟万歳
労働者農民万歳
残虐の限りを尽し暴圧の嵐は絶えず吹き続け
遂に俺達の言葉迄奪った奴等
哀れな奴等の迫害だ
哀れな奴等の猿轡だ
首を締めつける彼奴等の顔へ憫笑の一瞥を投げて
野火の如く囂々と拡がり行くではないか
俺達の火の手
真赤な火の手

虫けらの如く無残にも抹殺され
空しく屍を曝す幾千の言葉
血潮の憤激戦闘の伴侶敵を斃す俺達の鋭利な武器
奴等の凶刃を掻い潜って
俺達の身体に脈打つ其等
身体から身体へ伝播する其等
奴等よ 死物狂いの暴圧を越えて
俺達の真赤な火の迅速な拡がり――
かっきり充実する事実を見ろ

幾千の言葉を塗り潰しても
胎内に燃え頻る灼熱の鉄火
消滅を知らないボイラーの火の如く一切を動かす
俺達の元動力
打ち下すハンマーの尖端
切り崩す鍬の突先きから
血と汗に塗れて体得し
弾丸の如く身体に罩めた
俺達の正義の唯一の反逆
俺達の戦力の唯一の団結
碑銘の如く刻んだ俺等
暴圧の痛手を知らぬ不死身の俺等
塗り潰せ 幾百万の俺等の言葉
それは俺達の枝だ葉だ
日々に刻々に奪われた其等を恢復し拡大し
戦塵の中に絶えず発達する
彼奴等の弾圧に憤激の血を湧き立たせ
俺達の団結の力を讃え
彼奴等の迫害の無益を暴露き
彼奴等の打倒と転覆をきたして前進する
俺達の火の手
真赤な火の手

降り濺ぐ暴圧の弾丸を通じ
崩れた奴等の陣地を見ろ
堂々と進み行く俺達の足音に驚き
俄に造った防塁だ
慄き恐れた戦術だ
浮跫立った奴等の不憫な防戦だ
兄弟! 怒濤の如き俺達の威力を示せ
狂乱した奴等の飛ばす暴圧の矢面に
奪われた言葉の中に炸裂した巨弾を装填し
野良から、工場から街頭から
手榴弾の如くかっ飛ばせ
革命へ進軍する俺達の歩哨戦
奴等の一切を支配する死神の血祭りにだ
(『文芸戦線』一九二九年六月号に今村桓夫名で発表 一九八五年四月新日本出版社刊『今野大力・今村恒夫詩集』改訂版を底本)



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