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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題279 持参千両
279 じさんせんりょう
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第四卷 からくり屋敷」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年5月10日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1952(昭和27)年8月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2015-09-26 / 2015-05-25
長さの目安約 30 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「親分の前だが、あつしも今度ばかりは、二本差が羨ましくなりましたよ」
 ガラツ八の八五郎は、感にたへた聲を出すのでした。カラリと晴れた盆過ぎの或る日、平次は盛りを過ぎた朝顏の鉢の世話を燒き乍ら、それを手傳はうともせずに、縁側から無駄を言ふ、八五郎の相手をして居ります。
「おや、妙なことを言ふぢやないか、お前は武家と田螺和は大の嫌ひぢやなかつたのか」
 さう言ふ平次は、朝顏の世話に餘念もありません。
「好きにもなるだらうぢやありませんか。飯田町から番町、神田へかけて、第一番といふ娘を手にいれて、その上に持參が千兩」
「いづれはヒビの入つた娘だらう、てゝ無し子を生んだとか、筋の惡い男と驅け落ちをしたとか」
「飛んでも無い」
「夜な/\首が長くなつて、行燈の油を舐める藝當があるとか」
「そんな藝當なんかありやしません。綺麗で利發で、そりや氣立ての良い娘ですよ」
「泣かなくたつて宜い。その娘がどうしたんだ?」
「相手もあらうに、中坂の浪人者、寺西右京の伜で、業平習之進と言はれて居る男つ振りだが、評判のよくねえのへ小判で千兩の持參で嫁入はひどいでせう」
「一と箱は少し大きいな。人三化七の娘でも、持參は百兩と昔から相場のきまつたものだ」
「それがその千兩で、――無瑾で可愛らしくて、申分の無い娘に、千兩の持參とは何んといふことです」
「俺が叱られて居るやうだが、先づ話の筋を通してから、怒るなり泣くなり、お前の勝手にするが宜い」
「へエ? さう言へば、まだ何んにも言はなかつたやうで」
「呆れた野郎だ」
 平次は八五郎と並んで縁側に腰をおろして、泥だらけになつた手で、器用に煙草をつまみました。一本の煙管が、客にも主人にも共通です。
「元飯田町の質屋、紀の國屋信兵衞といふのを親分は御存じでせう」
「大層な身代ださうだな」
「その信兵衞は腹の底からの町人ですが、飯田町といふ場所で、武家の客を相手にして、親代々質屋を渡世にして居たら、人間の性根はどんなことになると思ひます」
「骨が折れることだらうよ」
「小唄の文句にもあるでせう、『意氣は深川勇みは神田、人の惡いは飯田町』とね。人の惡いのを看板の御家人、小旗本、生摺れの用人、小者が、朝夕質を置きに來て、強請がましい事を言ふのを相手にしてゐたら、大概の我慢や辛抱は摺り切れてしまひますよ」
「で、どうしたといふのだ」
 平次は一向に興奮も同調もする樣子は無く靜かに問ひ返しました。
「紀の國屋信兵衞、御無理御尤で片輪の印籠やガタガタ丸を、無法な金で質に取らされ、町人は自分一代限りとして、子供の代には曲りなりにも武家になり度いと思つたのも無理のないことぢやありませんか」
「さうかなア」
 腹からの町人の平次には、町人としての誇りがあり、八五郎の言ふ話には腑に落ちないものもありますが、武家のうるさい客を相手に商賣をしたわけでは無いので、…

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