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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題278 苫三七の娘
278 とまさんしちのむすめ
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第四卷 からくり屋敷」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年5月10日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1952(昭和27)年7月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2015-09-23 / 2015-08-17
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「へツへツ、親分、今晩は」
 ガラツ八の八五郎、箍のはじけた桶のやうに手のつけやうの無い笑ひを湛へ乍ら、明神下の平次の家の格子を顎で――平次に言はせると――開けて入るのでした。それは兩の手で彌造を拵へて、格子をまともに開けられる筈はないからだといふのです。
 五月のある日、爽やかな宵、八が來さうな晩でしたが、お仕着せの晩酌を絞つて、これから飯にしようといふ頃になつて、漸く個性的な馬鹿笑ひが、路地の闇をゆさぶるのでした。
「お前が笑ひ込んで來ると、御町内の衆は皆んな膽を潰すぢやないか、何がそんなに可笑しいんだ」
「へエ、あつしはどうかしてはゐませんか、親分」
「臍のロクロが、少し損じて居るんだらうよ、どうしても笑ひの止らないところを見ると」
「そんな間拔けな話ぢやありませんよ、あつしといふ人間は、どうして斯うも、綺麗な新造に好かれるかと――へツ、へツ」
「止さないかよ、馬鹿々々しい、お靜はお勝手口から逃出したぢやないか、お前の話を聽いて居ると、命に拘はる」
「それほどでも無いでせう。兎も角、田原町から此處まで來る間に三人の新造に首つ玉に噛りつかれたんだから、大したものでせう」
「少し變だな、氣は確かゝ。おい、野良犬にじやれつかれたのを、新造と間違へたわけぢやあるまいな」
「飛んでも無い、野良犬があんな結構な香りを匂はせるもんですか」
 八五郎はやつきとなります。
「どうも少し變だぜ、順序を立てゝ話して見な」
「順序を立てると、先づ田原町の八人藝、苫三七郎の家へ行つたことから話が始まります」
「苫三七郎――フム、變な男と掛り合ひをつけたものだな」
「御存じの通り、江戸中何處へでも、小屋を掛けて藝當を始めるから苫三七郎、ちよいと貧乏臭くて器用で、世間では大したものでないやうに思つて居るが、座頭の三七郎はなか/\の藝達者で、その上氣持の良い男だ。あつしとは長い間の附き合ひで」
「妙な友達を持つたものだな、まア、宜い。先を話せ」
「その三七郎の藝を一度親分に見せ度いな、家の藝は手踊だが、物眞似、小唄、一人芝居から、品玉までやるといふ藝達者で、とりわけ、二つ面を使つての所作は大したものですぜ」
「それがどうした」
 八五郎の話は長くなりさうです。
「その三七郎が、兩國廣小路に小屋を掛ける時、あつしが世話をしたのが縁で懇意になり、ちよい/\行つて無駄話をしてをりますがね」
「フーム」
「その三七郎が此間から、妙にふさいでゐるから、何うしたことかと、二三度訊いたら、すまねえが、八五郎親分にはうつかり話せねえ、――と笑つて相手にしなかつたんで」
「――」
「ところが、今日といふ今日、田原町の三七郎の家で一杯飮んでゐると、よく/\思ひ詰めたらしく、『どうも氣になつてならねえことがあるから、こいつを當分預かつて置いて、萬一のことがあつたら開けて見てくれ』と、ひどく勿體をつけ…

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