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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題294 井戸端の逢引
294 いどばたのあいびき
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第五卷 蝉丸の香爐」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年5月25日
初出「面白倶楽部」1953(昭和28)年1月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2015-05-23 / 2015-04-03
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「へツ、へツ、親分え」
 ガラツ八の八五郎は、髷節で格子戸をあけて、――嘘をつきやがれ、髷節ぢや格子は開かねえ、俺のところは家賃がうんと溜つて居るから、表の格子だつて、建て付けが惡いんだからと――、錢形の平次は言やしません。
 兎も角、恐れ入つた樣子で、明神下の平次の家へ、八五郎はやつて來たのです。
「此方へ入んな、何をマゴ/\してるんだ」
 平次はツイ、長火鉢の向うから聲をかけました。入口の障子を開けると、家中が見通し、女房のお靜が、お勝手で切つて居る、澤庵の數までが讀めやうといふ家居です。
「それがね、親分、少し敷居が高いんで、へツ」
「いやな野郎だな、敷居が高かつたら、鉋でも持つて來るが宜い、土臺ごと掘り捨てたつて、文句は言はねえよ」
「さう言はれると面目次第もねえが、あつしは生れてからたつた一度、親分に内證で、仕事をやらかさうとしたんで」
「何んだ、そんな事か、恐れ入ることは無いぢやないか、お前も立派な一本立ちの御用聞だ、うまい具合に酒呑童子を縛つて來たところで、俺は驚きはしないよ、一體何をやらかしたんだ」
 錢形平次は一向氣にする樣子もありません。それよりは、何時までも平次の子分で甘んじてゐる八五郎を、早く一本立の立派な御用聞にして、嫁でも貰つてやりたい心持で一ぱいだつたのです。
「それが、そのね、最初から話さなきやわかりませんが――極りが惡いなア、親分」
 八五郎は言ひそびれて、ポリ/\と小鬢を掻いたりするのです。
「極りなんか惡がる面ぢや無いぜ、お前は」
「極りの方で惡がる面でせう、その台詞は何度も聽きましたよ、――ところがね、親分、あつしが、生れて始めて、戀文をつけられたとしたらどんなもんです」
「ウフ、ツ」
「嫌だなア、さう言ふ下から、親分は直ぐ笑つてしまふでせう」
「笑はないよ、笑はないと言つたら、金輪際笑はないよ、俺は今、死んだお袋のことを考へてゐるんだ」
「笑はなきや言ひますがね、天地紅の半切に、綺麗な假名文字で、――一と筆しめし上げ※[#まいらせそうろう、7-2]――と來ましたね、これならあつしだつて讀めますよ」
「その手紙は何處にあるんだ、俺が讀んだ方が早く埒があきさうだ」
「口惜しいことに、書いた娘に取り戻されてしまつたんで、もう讀んだ上は要らないでせう、とグイグイ」
「何んだいそのグイグイといふのは?」
「丸い肱で、あつしの脇を小突いたんですよ」
「まあ、そんなことは、いづれ春永に伺ふことにして、手紙の文面は」
「一と筆しめし上げ參らせ候」
「それはわかつた、その先は?」
「八五郎親分樣には、いよ/\御機嫌のよし、目出度く存じ參らせ候」
「わかつた、その先は?」
「今夜四つ過ぎ人目を忍び中坂下の井戸のところまで御出で下されたく、命をかけて待ち上げ參らせ候、かしく――と、斯う言ふ手紙を、親分に見せられますか」
「相手は誰だ…

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