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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題153 荒神箒
153 こうじんぼうき
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第十八卷 彦徳の面」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年10月20日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1944(昭和19)年1月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2016-04-25 / 2016-05-10
長さの目安約 21 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「錢形平次親分といふのはお前樣かね」
 中年輩の駄馬に布子を着せたやうな百姓男が、平次の家の門口にノツソリと立ちました。
 老けてゐるのはその澁紙色に焦けた皮膚のせゐで、實は三十五六をあまり越してゐないかもわかりません。油氣のない髮を藁しべで結つて、月代は伸び放題、從つて熊の子のやうな凄まじい髯面ですが、微笑すると眼尻に皺が寄つて、飛んだ可愛らしい人相になります。
「錢形の親分は奧にゐるよ――俺は子分の八五郎といふものさ」
 八五郎はさう言つて、グイと長んがい顎を引いて見せました。
「道理で――」
 百姓男は感に堪へた顏をするのです。
「御挨拶だね、何か用事があるのかい」
「江戸開府以來といはれた捕物の名人にしちや、少し變だと思ひましたよ。惡く思はないで下さいよ」
「言ふことが一々丁寧で腹も立てられねえ」
 相手が正直過ぎて、八五郎のガラツ八も大たじ/\でした。
「八、何をして居るんだ。お客なら早く取次ぐが宜い」
 平次は奧から聲を掛けます。奧と言つても入口の三疊の隣の六疊。首を伸せば、格子の外に立つた客の睫毛も讀めさう。
 こんなやり取りがあつて、客の百姓男は漸く中へ通されました。
 疊の上へ眞四角に坐ると、座布團から膝が二三寸はみ出して、その上に置いた手が、八つ手の葉のやうにでつかいのも、何となく大地の子らしい人柄を思はせます。
「錢形の親分さんで御座いますか。私は柏木の在の者で、百兵衞と申しますが――」
 百姓男は慇懃に挨拶しましたが、八五郎に氣を兼ねたものか、容易に用事を切出しません。
「これは八五郎と言つて俺同樣の男だ。遠慮なく話すが宜い。一體どんな用事で柏木から遙々來なすつたんだ」
 平次はもどかしさうに誘ひの水を向けます。
「それぢや申しますが、實は親分さんに御願ひがあつて參りました」
「――」
「外ぢやございませんが、親分の智惠でこれを一つ判じて頂き度いんで」
 百兵衞はさう言つて、内懷ろから欝金木綿の財布を出すと、中から大事さうに疊んだ紙片を拔取り、その皺を寧丁に[#「寧丁に」はママ]膝の上に伸して、平次の方に押しやるのでした。
 紙片は半紙を四つに切つて、それに禿筆で書いたもの、
 ほうきからたつみ
 かまのはなからひつじさる
 くわのみみからいぬゐ
 くちのなかのめ
 斯う讀めます。
「フーム」
 平次もさすがに唸るばかり。
「親分さん、これを何と解いたもので御座いませう」
「箒から辰巳、鎌の鼻から未申、鍬の耳から戌亥、口の中の眼――と讀むんだらうな。どうだ分つたか、八」
 平次の智惠もこの謎には持て餘しました。
「自慢ぢやねえが、薩張りわからねえ。――どうかしたら、箒だの鎌だの鍬だのつて、お百姓の道具調べぢやありませんか」
「鎌の鼻や鍬の耳なんか百物語へ出て來さうだぜ」
「鍋の耳に、五徳の足なら分つてるが――」
「馬鹿だなア。―…

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