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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題165 桐の極印
165 きりのごくいん
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第十八卷 彦徳の面」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年10月20日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1947(昭和22)年1月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2016-05-24 / 2016-03-04
長さの目安約 26 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「親分、變な奴が來ましたよ」
 ガラツ八の八五郎は、長んがい顎を鳶口のやうに安唐紙へ引つ掛けて、二つ三つ瞬きをして見せました。
「お前よりも變か」
 何んといふ挨拶でせう。錢形平次は斯んなことを言ひ乍ら、日向に寢そべつたまゝ、粉煙草をせゝつて居るのです。
「へツ、あつしよりは若くて可愛らしいので」
「新造か、年増か、それとも――」
「何處かの小僧ですよ。――錢形の親分さんは御在宅で御座いませうか――つて、大玄關で仁義を切つてますよ、バクチ打と間違へたんだね。水でも打つかけて、追ひ返しませうか」
「待ちなよ、そんな荒つぽいことをしちやならねえ。この平次を鬼のやうな人間と思ひ込んで鯱鉾張つてゐるんだ、丁寧に通すが宜い」
「へエ――」
 やがて、ガラツ八の所謂大玄關の建て付けの惡い格子戸をガタピシさして、一人の客を招じ入れました。
「今日は、親分さん」
 敷居際でお辭儀をして、ヒヨイと擧げた顏を見ると、精々十五六、まだ元服前の可愛らしい小僧でした。
 正直らしいつぶらな眼も、働き者らしい淺黒い顏も、そして物馴れないおど/\した調子も、妙に人をひき付けます。
「そんなに改まらなくたつて宜いよ。――此野郎に脅かされて固くなつたんだらう。安心するが宜い、お上の御用は勤めてゐるが、人を縛るのが商賣ぢやねえ」
 平次は八五郎と小僧を見比べ乍ら、取なし顏にこんな事を言ふのでした。
「それがその――縛つて貰ひ度いんで、親分」
 小僧は途方もないことを言ひます。
「縛つて貰ひ度い――誰だい、そいつは?」
 平次は漸く居住居を直しました。可愛らしく膝小僧を二つ並べて、眞つ正面から平次を見入る、一生懸命な二つの瞳を見ると、ツイ斯う生眞面目にならずには居られなかつたのです。
「旦那を殺した奴を縛つて下さい、親分さん」
「旦那を殺した奴? そいつは穩かぢやないな。――一體誰が誰を殺したといふのだ。落着いて話して見るが宜い」
 平次は雁首で煙草盆を引寄せて、相手の氣の鎭まるのを待つやうに、ゆる/\と二三服吸ひつけました。
「私は、市ヶ谷田町の寶屋久八の奉公人で今吉と申しますが、主人の久八が五日前に亡くなつて、もうお葬ひも濟みましたが、その死にやうが、何んとしても腑に落ちません。お寺でも文句無しに引取つた葬式ですから、私風情が苦情を申したところで、何んの足しにもなりませんが」
 小僧は一寸言ひ澁りました。
「何うしてそれが定命でないと解つたのだ」
 平次は追つ驅けるやうに訊ねます。
「旦那が亡くなる前、うは言のやうに――七千兩、あいつにやられるか――と言ひました」
「――七千兩、あいつにやられるか――といふのだな」
「へエ」
「それを誰と誰が聽いてゐた」
「私とお孃樣だけで」
「それつきりか」
「旦那が亡くなつた後で番頭の善七さんが、(あの女がやつたに違ひない)と、獨り言のやうに申して…

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