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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題102 金蔵の行方
102 きんぞうのゆくえ
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第二十三卷 刑場の花嫁」 同光社
1954(昭和29)年4月5日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1939(昭和14)年10月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2016-07-17 / 2016-06-10
長さの目安約 32 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「へツ、へツ、可笑しなことがありますよ、親分」
「何が可笑しいんだ。いきなり人の面を見て、馬鹿笑ひなんかしやがつて、顏へ墨でもついてゐると言ふのかい」
 錢形平次は、ツルリと顏を撫でました。三十を越したばかり、まだなか/\良い男振りです。
「氣が短いなア、そんな人の惡い話ぢやありませんよ、へツ、へツ」
 ガラツ八の八五郎は、まだ思ひ出し笑ひが止りません。馬のやうな大きな齒を剥き出して、他愛もなく笑ふ樣子は、どうも十手捕繩と縁のある人間とは思へません。
「イヤな野郎だな。可笑しくて笑ふ分には年貢は要らねえが、顏の造作は臺無しだぜ。そんな羽目を外した相好を、新造に見せねえやうにしろ」
「ね、親分、相好ぐらゐは崩したくなりますよ。三輪の親分が風邪を引いて寢込んだのはいゝが、繩張り内に起つたことの捌きがつかなくなつて、お神樂の野郎が泣きを入れて來たんだから面白いぢやありませんか」
 ガラツ八はすつかり御機嫌になつて、手を揉んだり額を叩いたり。
「馬鹿野郎、人樣の病氣が何が面白い」
「――お願ひだから、錢形の親分に智慧を貸して貰つてくれ――つて、あの高慢なお神樂の清吉がさう言ふんだからよく/\でさ。だからあつしがさう言つてやつたんで、――憚りながら、錢形の親分は智慧の時貸しはしねえとね」
「智慧の時貸しつて奴があるかい」
「山の宿の丸屋の主人が行方知れずになつて、もう三十日にもなるが、まるつきり見當がつかないさうですよ。お役人方からお小言が出たんで、三輪の親分假病を使つてゐるんぢやありませんか」
「そいつは放つても置けまい。直ぐ行つて見ようか、八」
 こんな調子に運んで來ると、平次も案外氣輕に御輿を擧げます。
 近頃すつかり暇で、ろくな掻つ拂ひもないせゐもあつたでせう。
 淺草山の宿の金藏といふのは、まだ三十三四の若い男ですが、三年前新鳥越から移つて來て金貸を始め、一寸の間に、メキメキと身上を肥らせて行きました。曾つて新鳥越に榮華を誇つた、菱屋の番頭をしてゐて溜め込んだと言はれ、元手が非常に潤澤な上、金藏は年に似ぬ締り屋で、女房を貰つて、一人口ふやすのが惜しさに、下女一人、小僧一人を相手に、稼業大事と必死と働いてゐた樣子です。
 その丸屋の金藏が、丁度一と月前の八月十七日の晩、下女も小僧も知らないうちに、どこへともなく出て行つてしまつたのでした。身扮も平常のまゝ、金は一文も持つてゐた筈はなく、その上心掛のある町人に似げなく、麻裏草履を突つかけて、手拭を一本持つたきりで出て行つたのですから、三輪の萬七が一と月がゝりで嗅ぎ廻つても、この失踪の謎は解けさうもありません。
「ところが、主人の金藏が家出をしてから、四日目の晩に泥棒が入つて、店にあつた主人の財布ごと、有金二三十兩盜つた上、十四になる小僧の要吉に怪我をさせて行きましたよ」
 ガラツ八は得意の聽込みを説明してく…

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