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歌う白骨
うたうはっこつ
原題THE ECHO OF A MUTINY
著者
翻訳者妹尾 アキ夫
文字遣い新字新仮名
底本 「世界推理小説全集二十九巻 ソーンダイク博士」 東京創元社
1957(昭和32)年1月10日
入力者sogo
校正者小林繁雄
公開 / 更新2013-10-28 / 2014-09-16
長さの目安約 60 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

犯罪編


 おとなの論理的な頭では、とうてい分らないような人間のかくれた性格、そんなかくれたものを、おさなごや下等動物がわけもなく見破るという迷信は、かなり広くゆきわたっているようだ。そして彼らの判断を、経験を超越したすぐれたものとして、受けいれてしまうのである。
 こんな迷信は人々がパラドクスを愛するところからくるのかどうか、そんな問題は問う必要がなかろう。これは社会一般の信念になっていて、ことにある階級の婦人たちに支持されているようだ。そして、トマス・ソリー夫人もそれをかたく信ずる婦人の一人なのである。
「ほんとなのよ、」と、かの女はいう。「小さい子供や、ものもいえぬ動物がよく知っていることは、じっさいびっくりするほどなの。だから子供や動物をだまそうたってだめなの。純金とにせの金を一目で見わけたり、人の心をすぐ見抜いたりするんだから、ほんとにふしぎなのよ。あんなのを本能というんでしょうか。」
 そんな哲学的な、重大な言葉を、口からでまかせにしゃべりながら、ソリーのおかみさんは、ひじまでまくった両手を、石鹸の泡のなかにつっこんで、お客を見あげるのである。
 お客のブラウンは、ひざのうえにむっちり肥った十八カ月の子供と、ぶちの猫をのせて、戸口に坐っていた。彼はほっそりした、小男の年寄の船乗りで、ものしずかで、相手のきげんをとることが上手で、そのかわり少々ずるいようなところもあった。船乗りにはよくこんな男があるが、彼も子供や動物がすきで、またそんなものによくなつかれもした。だからこそ、いま現に、歯のない口に火の消えたパイプを動かしながら坐る彼の膝のうえでは、子供はにこにこ笑い、体を丸めた猫は、ごろごろ喉を鳴らして、その足の指を、気持よさそうにうごめかしているのである。
「燈台は淋しいですよ。」ソリー夫人はいう。「たった三人きりで、お隣りがないんですからね。それに洗濯なんかする女が一人もいないんだから、着ている物がきたなくなるでしょうしね。それにこの頃は九時すぎまで起きていなくちゃならんから退屈でしょう。どんなことをしてお暮しになるのかしら。」
「することは沢山ありまさあ。」ブラウンはいう。「ランプを掃除したり、ガラスをふいたり、それから時にはペンキも塗らなければならんしね。そういえば、」顔をおこして時計をあおぎ、「もうぼつぼつ行かなくちゃならん。十時半に満潮だというのに、もう八時をすぎた。」
 ソリー夫人は大急ぎで洗濯物をかきあつめ、それを綱のようにねじって絞って、エプロンで手をふき、もがく子供をブラウンの手からうけとった。
「部屋はかたづけときますからね、休みになったらいつでもおいでになって。トムと二人でお待ちしていますわ。」
「ありがとう。」ブラウンはそっと猫を下におろした。「また来るのを楽しみにしています。」
 彼は夫人と握手すると、赤ん坊に接吻し、猫…

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