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少女時代
しょうじょじだい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「少女時代」 双葉文庫、双葉社
1993(平成5)年5月15日
入力者八巻美恵
校正者高橋雅康
公開 / 更新2012-12-01 / 2014-09-16
長さの目安約 172 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#ページの左右中央]


たしかに一度だけ咲いた



[#改ページ]

「アイロンをかけてたとき、思いついたの。霧も素敵だなと、私は思いました」
 リカが言った。
「霧もいいですね」
 ハチミがなかば叫んだ。人の意見に賛成するとき、いつも彼女はなかば叫ぶ。彼女の名は初美という。はつみ、と読む。しかし、クラスの仲の良い仲間たちは誰もが、彼女をハチミと呼んでいた。
「でも」
 ナナエがハチミとリカのふたりに言った。
「小さな霧吹きで、しゅっしゅっと、二度や三度吹いたくらいでは、リカはなくならないでしょう」
「そうね」
「大きな霧吹きを使うのです」
「誰が吹いてくれるの?」
「それが問題ですね」
「どこか広い場所で、私の全部が、いっきに霧になるの」
「それなら素敵」
「赤い霧」
 リカが言った。
「赤がいいの?」
「すこし寒いような日で、空は曇っていて、しーんとして静かなのね。町ではなくて、どこか遠いところ。山のなかというわけでもないけれど、高原の奥のほうで、いったん峠のように高くなって、そこからすこし低くなった場所。見とおしのいい、広い場所」
「素敵です」
「高い崖みたいなところから、私は身を投げるの。すうっと落ちていく途中、自分の意志によるタイミングで、ぱっと霧になれるの。まっ赤な霧」
「誰も見てないの?」
「見てて。ハチミとナナエとトモには、絶対に見ててほしい」
「見ます。手袋をして、イア・マフをかけて」
「あ、可愛い。そいうの、トモにぴったり」
「ダッフル・コートを着て」
「そう、そう」
「リカは赤い霧になるのね。風が吹いて来て、その赤い霧が、さあっと空中を流れるのね」
「そうよ。でも、すぐに空間にのみこまれて、見えなくなってしまうの。私はそれで終わり」
 リカがしめくくった。
「完全に見えなくなるまで、見ててあげます。安心してて。でも、見えなくなったら、悲しいな」
「写真に撮っておけばいいかしら」
「そうね」
「写真ですか」
「曇った空に、赤い霧がさあっと流れてるの。ほかの人が見ても、なんのことだかわからないわ」
「書いておいて。その写真の下に。私の名前を」
「リカは霧と消えた」
 トモが言った。
「それがいい」
「赤い霧の午後、私たちはリカを見送りました」
 ナナエが言った。
「それもいいね」
 リカはうれしそうだった。
「赤霧リカの最後」
 ハチミが言った。そして四人の少女たちは、はじけるようにいっせいに笑った。
「それが最高」
 リカと呼ばれている彼女の名は、赤桐里花という。
「自分の名前から思いついたことなのかしら、霧になって死にたいというのは」
 トモがリカにきいた。
 リカは力をこめて首を振った。
「そんなことないのよ。人の言った冗談がやっとわかったみたいに、いま初めて自分でも気がついたの」
 ほかの三人が楽しく笑った。
「ということは、…

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