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笛吹川の上流(東沢と西沢)
ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「山の憶い出 上」 平凡社ライブラリー、平凡社
1999(平成11)年6月15日
初出「山岳 第11年第1号」1916(大正5)年10月
入力者栗原晶子
校正者雪森
公開 / 更新2013-06-20 / 2014-09-16
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 笛吹川は秩父街道最奥の部落である広瀬附近から上流になると子酉川と呼ばれている。広瀬から稍や爪先上りの赤土道を、七、八町も行くと、原中に一本の大きな水楢か何かの闊葉樹が生えている側で路が二つに岐れる。右は雁坂峠へ出るもので、今は峠ノ沢の製板業が盛になった為に、板を運搬するトロッコの鉄路が通じている。左に沿うて下り気味に辿って行くと雁坂峠から発する峠ノ沢の下流(下股)を渡って、河成段丘であるらしいバラ平なる原を通り抜け、山の裾を横に搦みながら少し上り始めると闊葉樹林が繁り出して来る。深い深い子酉川の上流東沢西沢の大森林は、茲に漸く其端緒を開いて、昼も薄暗い青葉の奥から、怪奇と雄大とを極めた子酉川の水が声を揚げて落ち来るのを左手の脚の下に瞰むようになる。此処から眺めた鶏冠山は、半腹以下は樹林に埋められ、胸から上は岩骨を曝露して見るから凄い光景を呈している。間もなく水のあるナレイ沢を瀑の上で横切ると路が二つに岐れる。左を取って下ると子酉川の河原に出る。粗末な小屋が川に面して建てられているが、路は茲に尽きている。之は岩魚釣の小屋であるらしい。小屋から其儘四、五町許り河身を遡っても、水さえ深くない時ならば楽に西沢の合流点に達することが出来る。
 此処で奥千丈山塊から東北に派出された所謂芦毛山脈の突端と、木賊山の東峰から南に派出された尾根の突端とが、まるで袋の口を括ったように南北から迫り合って、危く子酉川の上流を堰き止めている。そして国師岳から東北に延びた甲信国境の山稜からも狭い急な尾根が正東に派出されて、子酉川の上流を南北の二大支流に分つのである。此尾根は石塔尾根と称するもので、南は即ち西沢北は即ち東沢である。此処を二股と称する。
 前に記した路を左に下らずして右に山の鼻を登ると、暫くして急に一つの谷の底へ下り立つようになる。絶壁であるから横木を大五寸釘や針金で止めた荒木の梯子が架けてある。此沢は破風山の西から発源するヌク沢である。水量は極めて少ないが谷の幅は三間位はあろう。二十間ばかり下で殆んど瀑布をなし子酉川に落ち込んでいるから、水でも増せば徒渉は極めて危険である。谷に下りた処から二、三間上手に向って斜に河原を横切ると向う岸に登る路があるのだが、附近一帯にザラザラした崩崖をなしている為に、注意して探さないと上り口が分り憎い。岸に上って又山の鼻について笹や木立の中を分けて行くと、路は河身に下ってしまう。此処は最早東沢の領で、西沢の合流点より二町位上に当っているらしい。
 対岸の急斜面の下に少許の平地があって、林莽の茂生したのが目に入る。其処を目懸けて川を右岸に渡ると、丁度其茂みの中央と思うあたりに蹈まれた路の跡がある。之が石塔尾根に登って行く路であって、登り囗は夫とも分らないように倒木が横たわったり、木苺が茂ったりしているが、少し上ると闊葉樹の大森林の中に判然と路の…

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