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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題019 永楽銭の謎
019 えいらくせんのなぞ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「銭形平次捕物控(九)不死の霊薬」 嶋中文庫、嶋中書店
2005(平成17)年1月20日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1932(昭和7)年10月号
入力者山口瑠美
校正者noriko saito
公開 / 更新2016-11-14 / 2016-09-09
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 石原の利助が大怪我をしたという噂を聞いた銭形の平次、何を差措いても、その日のうちに見舞に行きました。
 同じ十手捕縄を預かる仲間、昔は手柄を張合った気まずい仲でしたが、利助も取る年でいくらか気が挫けた上、平次の潔白な侠気が、何より先に、娘のお品を動かして、今では身内のように付き合っている二人だったのです。
「兄哥、災難だったそうだね。一体、どうしたことなんだ」
 案内されて、中へ通った平次、お品の勧める座蒲団を押やって、利助の枕元に膝行り寄りました。
「平次兄哥か、わざわざ有難う。なアに、何でもありゃアしない、言わば、俺が間抜けなんだよ――」
 妙に苦い口調で、利助は半面晒布で包んだ顔をねじ向けました。
「眼をどうかしたっていうじゃないか」
「それがこうなんだ、――昨夜、もう蚊もいないし、涼しくて良い心持だから、縁側へ籠枕を出して、無精なようだが、ついウトウトとやると、いきなりハッと眼へ来たものがある」
「へエ」
「眼を開いていりゃア、間違いもなく眇目にされたが、幸いつぶっていたから、眉から瞼へかけて恐ろしい傷だ。球も少しはやられたかも知れないが、白眼だから、傷になっても、見えなくなるような事はあるまいと外科は言うよ」
 利助はそれでも、床の上へ起き直って、まだ腹立たしさが納まらぬといった調子に、拳固で自分の膝を叩いております。
「そいつは災難だったね、何が一体飛込んで来たんだ」
「銭だよ」
「えッ」
「ちょっと見は、棒で突いたようだが、後で見ると、縁の下に、肉の厚い永楽銭が一枚落ちていたんだ。こいつでやられたことは間違いのねえところだ」
「へエ――」
「余程腕の利く奴が、植込みの中から、銭を投りゃアがったんだよ」
「…………」
「どんな怨みがあるか知らないが、太い野郎じゃないか。捕まえたら、眼球でもくり抜いてやろうと思っている」
 たった一つの眼を光らせて、一徹な歯を喰いしばる利助の気持を、平次はもとより察し兼ねたわけではありません。
 植込みの外というと、三間近い距離から、縁側に転た寝している利助の眼を狙って、これだけ効果的に銭を叩き付けられるのは江戸広しといえども、投げ銭の手練で有名な、銭形の平次の外にあるはずはありません。
 商売敵の平次が、何か含むところがあって、利助の眼を潰そうとした――と聞いたら、江戸中の岡っ引は何と言うでしょう。弁解して信ずる人は信ずるでしょうが、当の利助さえ十二分の疑念を持っているくらいですから、まず百人の九十九人までは、平次に不利益な疑いを抱くことは判り切っております。
「つまらない目に逢ったね、でも球に障りがなくて何よりだ。せっかく大事にしねえ」
 平次はそう言うより外にありませんでした。お座なりと解り切っていても、これ以上に物を言うことが、かえって利助の疑いを濃くするだけだということが、商売柄、あまりにもよく解…

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