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身体検査
しんたいけんさ
著者
翻訳者米川 正夫
文字遣い新字新仮名
底本 「日本少国民文庫 世界名作選(一) 」 新潮文庫、新潮社
2003(平成15)年1月1日
入力者sogo
校正者湖山ルル
公開 / 更新2016-01-01 / 2016-01-01
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

前がき

 フョードル・クジミッチ・チェーチェニコフ――これがソログーブの本名である。フョードルは名、クジミッチは父称といって、父親の名に特定の語尾をつけて、自分の名と併用するものである。
 彼は千八百六十三年ペテルブルグで生まれた。父はポルタワ県出身の仕立屋で、母は農婦あがりだった。ソログーブが四つのときに父が死んで以来、母はよその家の女中奉公をして一人子を育て上げた。ソログーブは幼い時から母の奉公先の邸で、音楽や演劇などに親しむ機会を持ち、読書に対する深い趣味を養われた。彼はたくさんの書物を読んだが、中でも愛好してやまなかったのは『ロビンソン』『リア王』『ドン・キホーテ』などで、これらの書はほとんどそらで覚えていた。
 千八百八十三年、ペテルブルグの師範学校を卒業したソログーブは、各地に移り住みながら、教師を勤め、傍ら詩を作っていたが、間もなく長篇小説『重苦しい夢』、続いて同じく長篇の『小悪魔』を発表して、一流の作家として名をうたわれるようになった。二十五年間教育に尽して職を退いた後、創作に心をうちこんで、千九百二十七年になくなるまで、じつに二十巻の著作を残した。
 ソログーブの最大傑作は『小悪魔』とされているが、われわれに最も愛着を感じさせる、親しみ深い作品は短篇、殊に少年少女を主題にした短篇小説である。けがれのない少年の魂をほめたたえ、これを穢す大人の生活の醜さ、卑しさを憎み呪うソログーブの気持は、レース細工のようにこまやかな、美しい文章で、心にくいまでに写し出されている。(訳者)
[#改ページ]

        *

 この世では、いい事といやな事がまじりあい勝ちなものである。一年級の生徒でいるのはいい気持だ――それはこの世できまった位置を作ってくれるからだ。しかし、一年生の生活にだって、時々いやなことがある。
 夜が明けた。歩き廻る足音や、話し声などがざわざわし始めた。シューラは目をさました。そのとき始めて気がついたのは、自分の着ているものが何か破れたという感じだった。それは気持が悪かった。何か横っ腹の辺で皺くちゃになったと思うと――やがてその中にシャツが破れて、もみくたになったという感覚が、もっとはっきりして来た。腋の下が裂けて、その裂け口が一ばん下まで届きそうになったのが感じられた。
 シューラはいまいましくなった。つい昨日、ママにそういったのを思い出した。
「ママ、僕に新しいシャツを出してよ。このシャツは腋の下が破れてんだもの。」
 ママの返事はこうだった。
「あしたもう一日着てらっしゃい、シューラちゃん。」
 シューラはいつも不機嫌な時によくする癖で、ちょっと顔をしかめながら、さも癪だというような調子で、
「だって、ママ、あしたになったらすっかり破れてしまうじゃないの。ぼく乞食みたいな恰好して歩くな厭だあ!」
 けれども、ママはお仕事の…

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