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妖怪博士
ようかいはかせ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「妖怪博士/青銅の魔人」 江戸川乱歩推理文庫、講談社
1987(昭和62)年11月6日
初出「少年倶楽部」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年1月号~12月号
入力者sogo
校正者岡村和彦
公開 / 更新2016-08-14 / 2016-06-29
長さの目安約 265 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

奇怪な老人
 空いちめん、白い雲におおわれた、どんよりとむしあつい、春の日曜日の夕方のことでした。十二、三歳のかわいらしい小学生が、麻布の六本木に近い、さびしい屋敷町を、ただひとり、口笛を吹きながら歩いていました。
 この少年は、相川泰二君といって、小学校の六年生なのですが、きょうは近くのお友だちのところへ遊びに行って、同じ麻布の笄町にあるおうちへ帰る途中なのです。
 道の両がわは大きなやしきの塀がつづいていたり、神社の林があったりして、いつも人通りのすくない場所ですが、それが、きょうはどうしたことか、ことにさびしくて、長い町の向こうのはしまで、アスファルトの道路が、しろじろとつづいているばかりで、人の影も見えないのです。
 空はくもっていますし、それにもう日暮れに近いので、泰二君は、なんだかみょうに心ぼそくなってきました。口笛を吹きつづけているのも、その心ぼそさをまぎらすためかもしれません。
 ところが、足早に歩いていた泰二君は、とある町かどをまがったかと思うと、ハッとしたように、口笛をやめて立ちどまってしまいました。
 みょうなものを見たようです。二十メートルほど向こうの道のまんなかに、ひとりのぶきみな老人がうずくまって、みょうなことをしているのです。
 老人は映画に出てくる西洋の乞食みたいなふうをしていました。長いあいだ床屋に行ったこともないような、モジャモジャのしらが頭、顔中をうずめた白いほおひげ、あごひげ、身には、くず屋のかごの中からでも拾いだしたようなボロボロの古洋服を着て、靴下もない足に、やぶれ靴をはいています。
 その乞食のような老人が、道路のまん中にうずくまって、はくぼくで地面に何か書いているのです。
 泰二君は、「おかしいな。」と思ったものですから、町かどに身をかくすようにして、ソッと見ていますと、老人は地面に何か書きおわると、立ちあがって、うさんらしくキョロキョロとあたりを見まわし、そのまま向こうへ歩いていきます。
 泰二君は老人の立ちさるのを待って、その場所へいき、何を書いたのかと、地面のアスファルトの上をながめましたが、そこには直径八センチほどの丸の中に、十字が書いてあって、その十字の一本の棒のはしに矢のしるしがついているのです。
 年よりのくせに、こんなみょうないたずら書きをするなんて、あのおじいさん、気でもちがっているのかしらと、向こうへ遠ざかっていく、そのうしろ姿を見ますと、どうしたというのでしょう、向こうのまがりかどで、老人がまたうずくまっているではありませんか。そして、まえと同じように、地面へ何か書いているのです。
 相手がそこを立ちさるのを待って、いってみますと、やっぱり同じ丸の中に十字です。そして、一本の棒のはしに、方角を示すような矢のしるしがついています。
「へんだぞ。ひょっとしたら、あのじいさん、何か悪だくみをして…

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