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灰色の巨人
はいいろのきょじん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「灰色の巨人/魔法博士」 江戸川乱歩推理文庫、講談社
1988(昭和63)年3月8日
初出「少年クラブ」大日本雄辯會講談社、1955(昭和30)年1月号~12月号
入力者sogo
校正者茅宮君子
公開 / 更新2017-07-13 / 2017-07-31
長さの目安約 160 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

志摩の女王
 東京のまん中にある有名なデパートで、宝石てんらん会がひらかれていました。そのデパートの美術部主任が大活動をして、日本じゅうの名のある宝石をかり集め、五階のてんらん会場に、きらびやかにちんれつしたのです。
 むかしの華族や各地方の名家の、だいじにしている宝石類が、日本にもこんなに宝石があったのかと、おどろくほど集まったのです。宮さまからの出品もいくつかありました。
 集まった宝石の中には、じつに、いろいろな美術品がありました。ダイヤモンドやルビーをちりばめた、ヨーロッパのある国の王冠、みごとなダイヤでふちかざりをした、イギリス製の置時計、サファイアをちりばめた黄金の手箱などから、日本のまがたま、中国の白玉の美しいさいくものなど、まるで、きらめく星にかこまれたようなちんれつ室でした。
 そこに集まった宝石は、ぜんぶで何百億円というおそろしいねうちのもので、その中の一つでもなくなったり、ぬすまれたりしたら、たいへんですから、ちんれつ室には厳重なかこいをして、時間以外は出入り口にかぎをかけ、そのかぎは、デパートの美術主任が、はだみはなさず持っていることにしました。また、ちんれつ室のまわりには、もと警視庁のうでききの刑事だった人たち十人をたのんで、夜も昼も見はりをしてもらいました。
 ちんれつ室へはいる客も、一時に五十人ときめて、あとの人は、部屋の入口に列をつくって、待ってもらうことにしました。ですから二つの出入り口だけでも、十人の店員が、立ち番をつとめていましたし、ちんれつ室の中にも、ガラスばりのちんれつ台二つにひとりのわりあいで、女店員が見はり番をしていました。
 ちんれつ室の正面には、ひときわ大きなちんれつ棚がおかれ、そのガラスばりの中の黒ビロードのりっぱな台の上に、三つの宝物がならんでいました。左がわはダイヤをちりばめた置時計、右がわはダイヤとルビーの王冠、そして、そのまんなかには、高さ二十センチほどの、つぶよりの真珠を、何千と集めてこしらえた三重の宝塔が、月光殿のように、いぶし銀にかがやいていました。
 この真珠塔は、三重県の有名な真珠王が出品した「志摩の女王」という、とてもりっぱでめずらしい品物で、今から二十年もまえに、東京でひらかれた大はくらん会に、出品するためにつくられたのですが、そのはくらん会で、フランスから日本まで遠征してきた怪盗アルセーヌ=ルパンが、この真珠塔をぬすみ出し、名探偵明智小五郎が、大冒険のすえに取りもどしたという、いわくつきのたからものでした。(そのお話は「黄金仮面」という本に書いています。)
 東京都民は、新聞やラジオで、そのことを知っていましたので、この真珠塔「志摩の女王」は、ちんれつ室第一の人気ものとなり、人びとは、部屋にはいると、まず真珠塔をさがし、そのガラス箱の前に立って、美しい宝塔に見とれたまま、いつまでも動…

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