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サーカスの怪人
サーカスのかいじん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「魔法人形/サーカスの怪人」 江戸川乱歩推理文庫、講談社
1988(昭和63)年5月6日
初出「少年クラブ」大日本雄辯會講談社、1957(昭和32)年1月号~12月号
入力者sogo
校正者茅宮君子
公開 / 更新2017-10-13 / 2017-10-13
長さの目安約 154 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

骸骨紳士
 ある夕がた、少年探偵団の名コンビ井上一郎君とノロちゃんとが、世田谷区のさびしいやしきまちを歩いていました。きょうは井上君のほうが、ノロちゃんのおうちへ遊びにいったので、ノロちゃんが井上君を送っていくところです。
 ノロちゃんというのは、野呂一平君のあだなです。ノロちゃんは団員のうちでいちばん、おくびょうものですが、ちゃめで、あいきょうもので、みんなにすかれています。
 井上一郎君は、団員のうちで、いちばんからだが大きく、力も強いのです。そのうえ、おとうさんが、もと拳闘選手だったので、ときどき拳闘をおしえてもらうことがあり、学校でも、井上君にかなうものは、ひとりもありません。その大きくて強い井上君と、小さくて弱いノロちゃんが、こんなに仲がよいのはふしぎなほどでした。
 ふたりは、両側に長いコンクリートべいのつづいた、さびしい町を歩いていますと、ずっとむこうの町かどから、ひとりの紳士があらわれ、こちらへ歩いてきました。ねずみ色のオーバーに、ねずみ色のソフトをかぶり、ステッキをついて、とことこと歩いてくるのです。
 二少年は、その人のすがたを、遠くから、ひと目みたときに、なぜかゾーッと身がちぢむような気がしました。むこうのほうから、つめたい風が吹いてくるような感じで、からだが寒くなってきたのです。
 しかし、夕ぐれのことですから、その人の顔は、まだ、はっきり見えません。ふたりは、そのまま歩いていきました。紳士と二少年のあいだは、だんだん近づいてきます。そして、十メートルほど近よったとき、やっと、紳士の恐ろしい顔が見えたのです。
 ノロちゃんが、「アッ!」と、小さい叫び声をたてました。井上君は、それをとめようとして、グッと、ノロちゃんの腕をつかみました。
 ああ、恐ろしい夢でも見ているのではないでしょうか。その紳士の顔は、生きた人間ではなかったのです。まっ黒な目。はじめは黒めがねをかけているのかと思いましたが、そうではなかったのです。目はまっ黒な二つの穴だったのです。鼻も三角の穴です。そして、くちびるはなくて、長い上下の歯が、ニュッとむき出しになっているのです。それは骸骨の顔でした。骸骨が洋服をきて、ソフトをかぶり、ステッキをついて、歩いてきたのです。
 二少年は、夕ぐれどきのお化けに出あったのでしょうか。あれを見てはいけないと思いました。あの顔を見ていると、恐ろしいことがおこるような気がしました。ふたりは、コンクリートべいのほうをむいて、立ちどまり、骸骨の顔を見ないようにしました。そして、はやく、いきすぎてくれればよいと、いのっていました。
 ふたりのうしろを、いま、骸骨紳士が歩いていくのです。こと、こと、と靴の音がしています。その音が、ちょうど、ふたりのまうしろにきたとき、ぱったり聞こえなくなってしまいました。
 骸骨紳士が立ちどまったのです。あのま…

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