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流行作家の死
りゅうこうさっかのし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「野村胡堂探偵小説全集」 作品社
2007(平成19)年4月15日
初出「新青年」1932(昭和7)年2月
入力者門田裕志
校正者阿部哲也
公開 / 更新2015-11-24 / 2015-09-01
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

「勇、電話だよ」
 と社会部長の千種十次郎が怒鳴ると、
「おッ、今行くぞ、どうせ市内通報員だろう」
「いや、そんなものじゃ無い、早坂勇さんとはっきりお名差しだ」
「月賦の洋服屋にしては少し時刻が遅いね」
 無駄を言い乍ら、ストーブの側を離れた早坂勇、部長の廻転椅子の肘掛に腰を下すように、新聞社の編輯局にだけ許されて居る不作法な様子で、千種十次郎の手から受話器をたぐり寄せました。
「――僕は早坂、用事は何んです、何? 何? 小説家の小栗桂三郎が自殺したッ、何時? 今晩、本当か? 君は誰だッ、何? そんな事はどうでも宜いって、――宜くは無いよ、何? 立派な特種だから、手柄にしろって言うのかい、そいつは有難いが、君の名が判らないと困るなあ、――あ、一寸待った、切っちゃいけない、切っちゃ――あ、到頭切りゃあがった」
 受話器を放り出した足の勇の顔は、獲物を見付けた猟犬のような緊張に輝いて居りました。
「勇、小栗桂三郎が自殺したって? 本当かいそれは?」
 とニュース敏感症に罹ったような、千種十次郎が顔を持って来ます。
「本当にも何にもお聴きの通りだ、もう少し手繰ろうと思うと、いきなり電話を叩き切りゃあがった」
「おかしいなア、自働電話のようだったぜ」
「そうかね」
「その上子供の声だったろう、不思議だネ」
「何がおかしいんだ兄貴」
 社会部長と平記者の隔りも、友達同志を階級付けるには足りません。千種十次郎と足の勇は、斯う「俺お前関係」で話す間柄だったのです。これが又新聞社の面白い空気でもあります。
「そうじゃ無いか、小栗桂三郎は有名な金持で立派に電話を持って居る筈だ。その自殺を、誰だかは知らないが、此夜更けに往来の電話で新聞社に知らせるのは不思議じゃないか」
「フム」
「それにもう一つ、知っての通り、僕と小栗は、大学時代からの友達で、かなり親しい積りなんだ。その小粟に変ったことがあれば、僕に知らせるのが順当じゃ無いか」
「そうかも知れないが、兎に角、こいつは大特種だぜ、市内版の最初の段から入れたらどうだ」
 足の勇は気が気じゃありません。
「それは解ってるが、俺はどうも腑に落ちないことがあるんだ、勇済まないが、電話をかけて見てくれ」
「何処へ?」
「小栗の家へさ、俺はその間に標題だけでも書いて工場へ廻して置く」
「成程、その事だ」
 勇は言下に電話に掛りました。新聞社の編輯局独特の深夜の緊張が四辺を支配して、電話の鈴の音、ザラ紙の原稿紙に鉛筆の走る音、校正の読み合せの声――などが、漸く活気付いて来た工場の雑音を背景に、一種異様なリズムを醸し出して居ります。
「モシモシ、モシモシ、そちらは小栗さんですね、こちらは関東新報ですがね、――御主人が何うかなすった相じゃありませんか、詳しい事はいりません、締切の時間ですから、兎に角一応確かめて、改めて又詳しいことを聞かして頂き…

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