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ウィネッカの冬
ウィネッカのふゆ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎紀行集 アラスカの氷河」 岩波文庫、岩波書店
2002(平成14)年12月13日
初出「随筆」1955(昭和30)年2月
入力者門田裕志
校正者雪森
公開 / 更新2015-09-17 / 2015-05-25
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ウィネッカの冬は寒い。緯度はだいたい北海道の真中くらいで、寒さも似たようなものである。
 雪は少なくて、普通の年では五寸も積れば、皆大雪と思っている。三寸くらいのことが多く、根雪になることはまずない。気温が低いので、融けることは滅多にないが、風が相当強いので、二、三日もすると、皆蒸発してしまう。雪は少なくても、北海道くらいの寒さで、風が強いから、外はずいぶん寒い。しかし出歩きはたいてい自動車だし、家の中は煖房がよく設備されているので、寒さはそう気にならない。問題は雪だけで、三寸も積ると、自動車がスリップをして、まことに危険である。
 自動車のスリップは、非常に怖いもので、相当速度の出ている時に、急にブレーキを踏むと、車体がぐるぐると独楽のように廻って、どこへ行くか分らない。道の上には、たくさん外に自動車が走っているので、たいていどれかとぶつかってしまう。
 夕方居間の窓越しに、表の道路を見ていると、仕事場から帰る自動車が、どれもこれも、そろそろと、まるではうように動いて行くことが、時々ある。夕方から気温が下って、雪が凍って滑りやすくなったのである。そういう晩に、娘たちが何か出かける約束でもしてあると、妻が心配して、くどくどと注意をする。そして「分っていますよ。ブレーキの踏み方、私がママに教えて上げたんじゃないの」と、剣突をくっている。
 一番怖いのは、朝である。夜中に気温が下って、雪が凍り、その上に明け方少しばかり新雪があったりするのが、最悪の条件である。そういう時には、町役場の方で、トラックに砂と岩塩の粉とをまぜたものを積んで、それを道路の上にまいて歩く。朝の八時の出勤に間に合うように出かけて行くと、よく途中で、このトラックに会う。
 歩道の上も、危険である。婦人たちは、皆ハイヒールをはいているので、滑って頭を打ったりすると、たいへんなことになる。それで、これも町役場の方で、ごく小型の除雪自動車を朝早く出して、歩道の上の除雪をする。全部ではないが、各家庭では、玄関から歩道までと、自分の家の前の歩道とに、岩塩の粉をまく。夕方でも、パーティをする時などは、少し危険だと思ったら、階段のところと、歩道までの石だたみの上に、この粉をまいておく。お客の令夫人に転ばれたら、折角のパーティが台なしになってしまうからである。
 私が通っていたのは、国立の雪と氷の研究所で、隣り町のウィルメットというところにあった。自動車ならば、七分くらいで行けるところである。それで自宅と研究所との間を、往復しているだけならば、シカゴの雑沓を知らなくてすむ。事実、シカゴへ出かけるのは、一月に一度くらいで、二年間きわめて閑散なところに住んでいたわけである。
 雪は今言ったように、ほとんど降らない。寒さといっても、アメリカとしては、そう寒い地域とはいえない。氷の研究にも別に有利なところではない。…

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